〈行政上の強制執行〉
義務の不履行が前提となり、行政上の強制措置をとるので、国民に対する侵害作用の性質があるため、法律の根拠が必要。
※ 実際の行政執行の方法について、一般法があるのは代執行のみ。(行政代執行法1条)
行政上の強制執行には、代執行、強制徴収、直接徴収、執行罰の4種類ある。
~ 代執行(根拠法は、一般法である行政代執行法)~
代替的作為義務(その義務の履行を他人でも代わりに行うことができるような義務のこと)の履行がない場合、行政庁自らが義務者のなすべき履行を行い、または他人にこれを行わせ、その費用を義務者から徴収する方法。
~ 強制徴収(根拠法は、国税徴収法)~
義務者が行政上の金銭給付義務を履行しない場合、行政庁が強制手段によって、その義務が履行されたのと同じ状態を実現する方法。
(国税徴収法は、国税の滞納があったときの徴収に関する手続きについて定めた法律のこと。)
~ 直接強制(根拠法は、成田新法)~
義務者が義務を履行しない場合に、義務者の身体・財産に直接実力を加え、義務の履行があったのと同様の状態を実現する方法。
(成田新法とは、成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法のこと。)
~ 執行罰(根拠法は、砂防法)~
義務者が期限内に義務を履行しない場合、過料を科す旨を予告して心理的強制を加えて義務者の履行を促し、なお履行しない場合には過料を強制的に徴収する方法。(砂防法とは、土石流対策のための砂防設備などに関する事項について定めた法律。)
〈地方自治体が提起した訴訟〉
裁判所法3条1項にいう法律上の争訟とは、当事者の具体的な権利義務や法律関係に関する争いであって、法令を適用することで終局的な解決ができる争訟のことをいう。
~ 法律上の争訟にあたる場合 ~
財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるときは、法律上の争訟にあたる。(例えば、市が保有する土地が不法に占拠されていて、市が所有権に基づいて不法占拠者に対して妨害排除請求をする訴訟がこれにあたる。)
~ 法律上の争訟にあたらない場合 ~
もっぱら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める場合は、法律上の争訟にあたらない。(法律の適用の適正の維持または、一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから。)
※ 強制執行を認める法律の根拠がないときは、行政庁による実力執行が認められないだけでなく、裁判所を通じた司法的執行もできない。
(宝塚市パチンコ条例事件(最判平14.7.9)市長の同意をとらずにパチンコ店の建築工事に着手したYに対し、条例に基づき建築工事中止命令を発したが、工事を続けたため市がYを相手に公示の続行禁止を求める民事訴訟を提起した。⇒ 法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではない。)
〈代執行〉
行政庁AがXに違法家屋の撤去を命じたにもかかわらず、Xが撤去義務を履行しない場合。行政庁Aが、代わりに撤去をすることで、強制的に義務を履行したことにしてしまう。法的根拠は、行政代執行法にある。
※ 代執行は、行政手続法の不利益処分には該当しない(行政手続法2条4号イ)
※ 撤去の義務を命じることは法律か条例。
※ 代執行の実施は第三者に行わせることができる。
〈要件〉① 代替的作為義務の不履行があるとき。 ② 他の手段によってその履行を確保することが困難なとき。 ③ 不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき。(全部の要件を満たしたら代執行できる。)
〈手続き〉
代執行の前に、文書で戒告し、代執行令書による通知をしなければならない。
代執行の当日に、現場に派遣される執行責任者は証票を携帯しなければならない。代執行後は、代執行に要した費用を義務者に納付するよう命じなければならない。
〈行政代執行法〉
※ 行政代執行法は一般法。個別法に別の規定があればそちらを優先して適用。個別法に簡易的な代執行の定めがあれば、その方法による。
~ 1条(一般法)~
行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律に定めるところによる。
~ 2条(要件)~
代替的作為義務の不履行がある場合、他の手段によってその履行を確保することが困難であり、かつ、その不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは代執行が可能。
~ 3条(手続き)~
① 相当の履行期限を定め、その期限までに履行がなされないときは、代執行をなすべき旨をあらかじめ文書で戒告。
② 戒告を受けても義務者が指定の期限までにその義務を履行しないとき、代執行令書をもって、代執行をなすべき時期、代執行のために派遣する執行責任者の指名、代執行に要する費用の概算による見積額を義務者に通知。
③ 非常の場合または危険切迫の場合において、当該行為の急速な実施について緊急の必要があり、①・② の手続きをとる暇がないときは、その手続きは経ないで代執行をすることができる。
~ 4条(証票)~
代執行のために現場に派遣される執行責任者は、その者が執行責任者たる本人であることを示すべき証票を携帯する。(要求がある時にはこれを呈示)
~ 5条(費用)~
代執行に要した費用の徴収は、義務者に対し、文書をもって納付を命じる。
~ 6条(強制徴収)~
代執行に要した費用は、国税滞納処分の例により、これを聴取することができる。