〈審理員の指名〉
審査請求の審理は、審査請求を受けた行政庁(審査庁)自身が行うのではなく、審査庁が、審査庁に所属する職員のうちから審理手続を行う者を指名し、その者に審理を行わせる。指名された職員を審理員という。
〈審理員名簿〉
審査庁となるべき行政庁は、審理員となるべき者の名簿を作成するよう努めるとともに、これを作成した時は、当該審査庁となるべき行政庁および関係処分庁の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。(17条)(処分・不作為の両方必要)(名簿の作成は努力。公にすることは義務。)
※ 審査請求人自身や、その配偶者や4親等内の親族などは審理員になれない。職員のうち審査請求に係る処分に関与した者もなれない。(9条2項)
〈書面審理〉
行政不服審査法は簡易迅速な救済のための仕組みなので、審理は書面による審理という形式で行われる。
〈口頭意見陳述〉
審査請求人は、審査請求に係る事件に関する意見を口頭で述べる機会を与えてほしいと申し立てることもでき、審理員は、申立てがあれば原則としてその機会を与えなければならない。(31条1項)
例)行政庁Aから処分を受けたXが、行政庁Bに対して審査請求した場合。
① 審査請求人Xが、「処分に対して、なぜ不服があるのか」「処分をどうしてほしいのか」などを記載した「審査請求書」を審査庁である行政庁Bに提出する。
② 行政庁B(審査庁)に所属する職員のうちから審理員を指名する。
③ 審理員Cは、行政庁A(処分庁)に「審査請求書」を送付する。
④ 行政庁Aは、「審査請求された処分について処分庁はどう考えているのか」などを記載した「弁明書」を審理員Cに提出する。
⑤ 審理員Cは、審査請求人Xに「弁明書」を送付する。
⑥ 審査請求人Xは、弁明書を読んで、それに対する反論などを記載した「反論書」を審理員Cに提出する。
※ 審理員は、必要があると認める場合には、数個の審査請求に係る審理手続を併合し、または併合された数個の審理請求に係る審理手続きを分離することができる。
〈証拠調べ〉
審理に必要な証拠調べは、審査請求人の申立てのほか審理員の職権によって行うことができる。例えば、物件の提出要求(33条)、参考人の陳述・鑑定の要求(34条)、検証(35条)、審理関係人への質問(36条)がある。
審査請求人は、証拠書類・証拠物を提出できる。(32条1項)。
処分庁も当該処分の理由となる事実を証する書類その他の物件を提出できる。(32条2項)
〈審理の終結〉
審理員は、審理が終われば、審理意見書を作成し、審査庁に提出する。(42条1項・2項)。その後、審査庁は、行政不服審査会等への諮問を経て答申を受け、最終的な争訟裁断(争いごとを裁いて一定の判断を下すこと)として裁決をする。(43条1項、44条)
① 審理員は、必要な審理を終えたと認める時は、審理手続きを終結する。(41条1項)
② 審理員は、遅滞なく、審査庁がすべき裁決に関する意見書(審理員意見書)を作成し(42条1項)速やかに、これを事件記録とともに審査庁に提出する。(42条2項)
③ 審査庁は、審理員意見書の提出を受けたら、行政不服審査会等に諮問する。(43条1項)
④ 審査庁は、行政不服審査会等から諮問に対する答申を受けたら、遅滞なく、裁決を下す。(44条)
※ 行政不服審査会は、審査庁からの諮問に応じる機関として総務省に設置された第三者機関。審理員が行った審理手続の適正性などをチェックする。
※ 審査庁が、地方公共団体の長の場合は、地方公共団体に置かれる行政不服審査機関に対して諮問する。(43条1項)
※ 地方公共団体に置かれる行政不服審査機関の組織及び運営に関する事項は、当該地方公共団体の条例で定めるものとされている。(81条4項)
〈審査請求の裁決〉
処分についての審査請求が法定の期間経過後にされたものである場合その他不適法である場合には、審査庁は、裁決で、当該審査請求を却下する。(45条1項)【却下裁決】
処分についての審査請求に理由がない場合には、審査庁は、裁決で、当該審査請求を棄却する。(45条2項)【棄却裁決】
処分についての審査請求に理由がある場合には、審査庁は、裁決で、当該処分を取り消す。(46条1項)【認容裁決】
※ 行政不服審査法では、違法または不当なものが対象。
〈認容裁決〉
Xが行政庁Aに許可申請をしたが却下されたことに対して審査請求した結果、審査庁が却下処分を取り消し、申請に対して許可処分をすべきと判断した場合(46条2項)
① 審査庁が処分庁自身の場合は、申請却下処分を取り消して、許可処分をする。
② 審査庁が処分庁の上級行政庁の場合、申請却下処分を取り消して、行政庁Aに対して許可処分をすべき旨を命じる。
③ 審査庁が処分庁自身でも上級行政庁でもない場合、申請却下処分を取り消す。
Xが行政庁Aに許可申請をしたが申請に対してなにもされてないことに対して審査請求した結果、審査庁は、不作為の違法を認め、申請に対して許可処分をすべきと判断した場合(49条3項)
① 審査庁が処分庁自身の場合は、不作為の違法性を宣言して、許可処分をする。
② 審査庁が処分庁の上級行政庁の場合、不作為の違法性を宣言して、行政庁Aに対して許可処分をすべき旨を命じる。
③ 審査庁が処分庁自身でも上級行政庁でもない場合、不作為の違法性を宣言する。
〈事情裁決〉
審査請求に係る処分が違法または不当ではあるが、これを取り消したりすることが公の利益に著しい障害を生じさせる場合において、いろいろな事情を考慮した上で処分の取消しなどが公共の福祉に適合しないと認めるときは、審査庁は、当該審査請求を棄却することができる。(45条3項前段)この場合、審査庁は、裁決の主文で、当該処分が違法または不当であることを宣言しなければならない。(45条3項後段)
〈変更裁決〉
行政庁の処分に対して審査請求した場合、審査庁が処分庁自身のときや上級行政庁のときは、処分を別のものに変更する裁決が下されることがある。(46条1項)ただし、審査請求人に不利益となるような変更をすることはできない。(48条)
〈裁決の方式〉
①主文、②事案の概要、③審理関係人の主張の要旨、④理由 を記載し、審査庁が記名押印した裁決書により裁決しなければならない。(50条1項)
〈裁決の効力〉
公定力、不可争力、不可変更力といった行政行為の効力もあるが、形成力、拘束力といった効力もある。
※ 請求が認容され、処分が取り消されたときは、処分の効力は直ちに失われ、最初からなかったことになる効力を形成力という。
※ 請求が認容された場合、その採決が関係行政庁を拘束する効力を拘束力という。
〈執行停止〉
審査請求後、結果が出るまでは効力は生じたまま。(執行不停止の原則:25条1項)
審査請求人の保護のため、審査請求の審理中は処分の効力を停止しておくことができる。(執行停止制度:25条2項・3項)
※ 処分によって生じる効力を一時停止し、処分がされたなかった状態を作り出すことを処分の効力の停止という。(営業停止の処分の効力を停止し、営業できる状態を回復させる。)
※ 処分内容の実現のための実行力を停止させることを処分の執行の停止という。(建築物を撤去するように命じられたときの代執行を停止する。)
※ 処分を前提として行われる後続処分をさせないことを手続きの続行の停止という。(土地収用法に基づく事業認定を前提として行われる収用手続きを停止する。)
※ 出された処分を別の処分に変えることにより元の処分を停止させることもできる。(公務員の免職処分を停職処分に変える。)
※ 審理員は、必要があると認める場合は、審査庁に対し、執行停止をすべき旨の意見書を提出することができる。(40条)この場合、審査庁は、速やかに、執行停止をするかどうかを決定しなければならない。(25条7項)
※ 25条6項では、処分の効力の停止は、処分の効力の停止以外の措置によって目的を達することができるときは、することができない旨を規定している。
※ 審査庁が処分行政庁自身または処分庁の上級行政庁のいずれでもないときは、処分を別の処分に変えることはできない。
〈執行停止が義務化される場合〉
審査請求人の申立てがあり、処分等により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があると認めるときは、審査庁は、執行停止をしなければならない。(25条4項本文)。ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、または、本案について理由がないとみえるときは、執行停止をしなくてもよい。(25条4項ただし書)(⇔義務化されるのは、「重大な損害」。「回復困難な損害」ではない。)
〈執行停止のルールが審査庁によって異なるとき〉
処分庁以外の行政庁が審査庁となる場合。
~ 審査庁が処分庁の上級行政庁の場合(25条2項)~
※ 審査庁は指揮監督権を持つ。
※ 審査請求人の申立てによる執行停止は、できる。
※ 審査庁の職権による執行停止は、できる。
※ 処分庁の意見聴取は、いらない。
※ 処分を別の処分に変えることはできる。
~ 審査庁が処分庁の上級行政庁でない場合(25条3項)~
※ 審査庁は、第三者の立場で審査をする。
※ 審査請求人の申立てによる執行停止は、できる。
※ 審査庁の職権による執行停止は、できない。
※ 処分庁の意見聴取は、必要。
※ 処分を別の処分に変えることはできない。
〈執行停止の取消し〉
執行停止をした後で、執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすことが明らかになったときなどには、審査庁は、その執行停止を取り消すことができる。(26条)