日本国憲法17条
何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
※ 憲法17条の実施法として、昭和22年に国家賠償法が制定された。
※ 国家賠償法は一般法なので、個別の法律に異なる規定があれば個別の法律の規定が適用され、個別の法律がないときは国家賠償法の規定が適用される(5条)
※ 国家賠償法に基づく損害賠償請求は民事訴訟の手続による。
事前のチェック⇒ 行政手続法(処分などに対して適用)
事後のチェック⇒ 行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法
(処分の取消しや、賠償請求などに対して適用。)
〈国家賠償法の条文体系〉
☆ 公務委員の不法行為による場合(1条、3条)
→ 要件のあてはめ、賠償責任、求償
☆ 公の営造物の設置管理の瑕疵による場合(2条、3条)
→ 要件のあてはめ、賠償責任、求償
☆ その他(4条~6条)
→ 他の法律との関係、外国人が被害者の場合
〈民法との関係〉
損害賠償に関する一般的なルールは、民法にある。
国または公共団体に対する賠償請求であるという特殊性を考慮して定められたのが、国家賠償法。
※ 国家賠償法にない事項については、民法の定めによる。
※ 国家賠償法4条の条文内にある「民法」には、失火の場合における民法709条の特別ルールにあたる「失火責任法」も含まれる。
※ 失火責任法は「失火ノ責任二関スル法律」のこと。1条だけの法律。失火の場合、重過失のあるときだけ不法行為責任を負う旨が規定されている。軽過失しかないときは免責される。
公務員の不法行為による国家賠償(1条)
公務員の不法行為により生じた損害に関する賠償責任。
※ 行政処分の取消判決が確定したときでも、同一処分に関する国家賠償訴訟において、国または地方公共団体は、当該処分を行ったことが国家賠償法上は違法ではないと主張することができる。
〈要件〉
① 公権力の行使に当たる行為であること。
② 公務員の行為であること。
③ 職務を行うについて発生したものであること。
④ 故意または過失があること。
⑤ 違法に加えられた損害が発生していること。
※ 行政処分など公権力の行使にあたる場合は、国家賠償法1条が適用され、民法715条は適用されない。
※ 私経済活動など公権力の行使にあたたない場合は、国家賠償法1条は適用されず、民法715条が適用される。(国家賠償法が適用されない場合でも、国や公共団体は、民法715条により、公務員の使用者として責任を負うことがある。)
〈判例〉
~ 公権力の行使 ~
※ 行政指導は該当する。(最判昭60.7.16)
※ 公立学校での教師の教育活動は該当する。(最判昭62.2.6)
※ 公立学校でのクラブ活動中の教師の監督行為は該当する。(最判昭58.2.18)
※ 立法行為は該当する。(最判昭60.11.21)
※ 裁判官がした争訟の裁判は該当する。(最判昭57.3.12)
※ 公立病院の医療過誤は、該当しない。(最判昭36.2.16)
※ 国家公務員定期健康診断における国嘱託の保健所勤務医師による検診は該当しない。(最判昭57.4.1)
※ 勾留患者に対して拘置所職員である医師が行う医療行為は該当する。(最判平17.12.8)
※ 議会が議員にした辞職勧告決議は該当する。(最判平6.6.21)
※ 通達の発令は該当する。(最判平19.11.1)
~ 公務員 ~
※ 指定確認検査機関が行った建築確認は該当する。(最欠平17.6.24)
※ 社会福祉法人が設置運営する児童養護施設に入所した児童に対する施設職員等による養護監護行為は該当する。(最判平19.1.25)
~ 職務を行うについて ~
※ 公務員に職務執行の意思はなくても、加害行為が客観的に見て職務執行の外形を備えているときは該当する。(最判昭31.11.30)
~ 違法性 ~
※ 逃走車両が第三者に損害を生じさせたが、パトカーの追跡行為が警察官の職務遂行として認められ、職務目的を遂行する上で不必要であるとか、追跡方法が不相応であったという事情はなかった場合は違法ではない。(最判昭61.2.27)
※ 所得税の更正処分について所得税額が過大に設定されていたが、税務署長が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正処分したと言える事情はなかった場合は、違法ではない。(最判平5.3.11)
~ 非番警察官強盗殺人事件(最判昭31.11.30) ~
※ お金に困った警察官Aは、非番の日に制服制帽を着用の上、拳銃を携帯して犯行現場に赴き、職務行為を装ってBに声をかけ、現金等を奪って、拳銃でBを射殺した。これに対し、Bの遺族Xが、地方公共団体に対し国家賠償請求訴訟を提起した。
この場合、公務員が主観的に権限行使の意思をもってする場合にかぎらず、自己の利をはかる意図をもってする場合でも、客観的に職務執行の外形をそなえる行為によって他人に損害を加えたときは、国または公共団体に損害賠償責任を負わせるべきと言える。(当初より職務執行の意思がなくても、客観的に職務執行の外形をそなえる公務員の行為も、国家賠償法1条1項の「その職務を行うについて」の要件を充たしているということ。)
〈賠償責任者〉
公務員の不法行為による損害について、国家賠償法1条の責任を負うのは、公務員個人ではなく、国または公共団体。(1条1項)。(最判昭30.4.19)
公務員Aの選任・監督にあたるのがB市で、公務員の俸給・給与を負担するのがC県であった場合。
※ 公務員Aから損害を受けたXは、B市だけではなく、C県に対しても損害賠償請求できる。(3条1項)
※ C県が損害を賠償した場合、C県はB市に対して求償権を有する。(3条2項)
〈求償〉
公務員に故意または重大な過失があったときは、国または公共団体は、その公務員に対して求償できる。(1条2項)