36.損失補償

適法な行政活動によって発生した国民の損失公費で補償することで、損失の公平な分担を図ろうとする制度。
※ 憲法29条3項に損失補償に関する規定がある。(私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができることが規定されている。)
※ 国家賠償法のような一般方がなく、土地収用法という個別の法律によって補償に関するルールが定められている。


〈損失補償の流れ〉
1.企業者Bが、国土交通大臣事業の認定の申請をして、国土交通大臣が事業認定をしたとき。
2.企業者Bは、A県収用委員会に収用裁決の申請をし、A県収用委員会は、土地の所有者X収用裁決をする。
3.土地の所有者X起業家B土地を明渡し起業家Bは、土地の所有者Xに保証金の支払いをする。(損失補償)
※ 土地の収用により土地所有者や関係人が受ける損失は、企業者が補償しなければならない。(土地収用法68条)
※ 土地の収用による移転に伴う営業上の損失も補償対象となる。(88条)
※ 土地収用法の損失補償について、金銭での補償のほか、代替地の提供による保証も認められる。(70条)


〈判例〉
※ 個別法に損失補償に関する規定がないからといって、それがあらゆる場合について一切の損失補償を全く否定する趣旨とまではいえず、別途、直接憲法29条3項を根拠にして、補償請求をすることも可能。(河川附近地制限令事件:最大判昭43.11.27)
※ 災害防止のために財産権を制限した場合、憲法29条3項の損失補償は不要(奈良県ため池条例事件:最大判昭38.6.26)
※ 道路工事の施工の結果、警察違反の状態を生じ、危険物保有者が基準に適合するように工作物の移転等を余儀なくされたとしても、それは道路工事の施工によって警察規制に基づく損失がたまたま現実化するに至ったにすぎず、これに対する損失補償は不要(ガソリンタンク事件:最判昭58.2.18)
※ 都有行政財産たる土地につき使用許可によって与えられた使用権は、それが期間の定めのないものであれば、当該行政財産本来の用途または目的上の必要を生じたときに使用許可が撤回された場合、これに対する損失補償は不要(最判昭49.2.5)
※ 都市計画法上の土地利用制限によって生じる損失は、一般的に当然に受任するべきものとされる制限の範囲を超えて特別の犠牲を課したものとはいえず、これに対する損失補償は不要。(最判平17.11.1)


〈国家賠償法と損失補償の相違〉

~ 国家賠償 ~
※ 違法な行政活動から生じた損害を賠償する。
※ 財産権のほか、生命・身体への侵害も賠償の対象
※ 一般方あり。(国家賠償法

~ 損失補償 ~
※ 適法な行政活動によって生じた損失を填補する。
※ 財産権に対して特別の犠牲を加えたことが補償の対象。
※ 一般方なし

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