6.行政行為

行政庁が、法律に基づき、権力的に、特定の国民の権利義務を変動させる行為を行政行為という。

〈行政行為の分類〉

行政行為は全部で10種類に分類されている。

~ 法律行為的行政行為(行政庁の意思表示が必要)~

命令的行為 ⇒ 下命、許可、免除
(国民が本来有している自由を制限し、またはその制限を解除する行為。)

形成的行為 ⇒ 特許、認可、代理
(国民が本来有していない権利や地位を与える行為。)

~ 準法律行為的行政行為(行政庁の意思表示は不要)~

確認、公証、通知、受理


〈法律行為的行政行為〉(行政庁の意思表示によって行われる行政行為)
※ 条文上「許可」と表記されていても、行政行為の分類上の許可概念にあたるとは限らない。それが特許や認可にあたることもある。

下命(命令的行為)
※ 国民に「~しなさい」「~してはいけない」と命じる行為。
※ 税金の納付命令、営業停止命令、違法建築物の除去命令。

許可(命令的行為)
※ 法令で一般的に禁止されていることを、特定の場合に解除する行為。
※ 無許可で行った営業上の行為も取引としては有効。
※ 自動車運転免許、飲食店営業許可、医師の免許

免除(命令的行為)
※ 法令等で課されている義務を、特定の場合に免除する行為
※ 保険料の納付免除

特許(形成的行為)
※ 特定人のために新しく権利を設定したり、法律上の力や地位を付与する行為。
※ 特許は、許可に比べ、裁量の幅が広いのが特徴。
※ 道路の占用許可外国人の帰化許可公有水面の埋立免許電気事業の許可

認可(形成的行為)
※ 当事者間の法律行為を補充して、その法律効果を完成させる行為。
※ 無認可で行った行為は無効。認可によって法律効果が完成するので、認可が無ければ法律効果は生じない。
※ 農地の権利移転の許可(売買契約+認可=所有権移転)、銀行の合併の認可、河川占用権の譲渡の承認、ガス事業者の供給約款の認可

代理(形成的行為)
※ 別の機関がなすべき行為を代わりに行う行為
※ 公共団体の役員の任命の代理

〈準法律行為的行政行為〉
(行政庁の意思表示に拠らず、法律によって効果が定められている行政行為)

確認
※ 特定の事実または法律関係の存在等を公の権威をもって確定する行為。
※ 発明の特許、建築確認

公証
※ 特定の事実または法律関係の存在を公に証明する行為。
※ 自動車運転免許証の交付

通知
※ 他人に対し、一定の事項を知らせる行為。
※ 納税の督促

受理
※ 他人の行為を有効な行為として受領する行為。
※ 婚姻届の受理

〈間違いやすい許可・特許・認可〉

道路の占用許可⇒ 特許(許可ではない)
※ 本来は占用する権利はないけど、その権利を設定して占用できるようにしている。
農地の権利移転の許可⇒ 認可(許可ではない)
※ 当事者間の法律行為(売主と買主の契約)を補充して法律効果(所有権の移転)を完成させている。


〈公定力〉

 瑕疵のある行政行為であっても、権限のある行政機関または裁判所が取り消すまでは一応有効として扱われる効力を公定力という。

※ 瑕疵が重大かつ明白な場合、無効として扱われるため、取消されるまでは一応有効という効力は生じない

※ 国家賠償請求訴訟や刑事訴訟で行政行為の違法性を認定するだけなら行政行為の取消しは必要ないので、国家賠償請求訴訟や刑事訴訟の中で行政行為の違法を主張するのにあらかじめ取消訴訟を提起して取消判決を得ておく必要ない


〈不可争力〉

瑕疵ある行政行為に対してはその取消しを求めて審査請求や取消訴訟で争うことができる。一定期間が経過すると、行政行為の相手や利害関係人など私人の側からは、行政行為の効力を争うことはできなくなる効力のことをいう。
※ 訴訟で行政行為の取消しを求めて争うなら取消訴訟という方法によらなければならないという考えは「取消訴訟の排他的管轄」という。
※ 私人から争えなくなるだけで、期間経過後に行政庁が職権で取消すことは可能


〈不可変更力〉

行政庁が行った行政行為を自ら変更することができなくなる効力のことを不可変更力という。
※ 不可変更力は審査請求に対して審査庁が下した裁決など一部の行政行為に認められるもので、行政行為一般に認められるものとはいえない。


〈執行力〉(自力執行力)

行政行為を受けた者が行政上の義務を履行しない場合、行政庁が、裁判所の力を借りることなく、自力で強制的に行政行為の内容を実現することができる効力のことを執行力という。
※ 強制執行を自力で行うことを認めるものであって、法律の根拠なく強制執行できることを認めた者ではない。
※ 義務の履行の強制を「代執行」といい、行政執行法にルールが定められている。


〈行政行為の形式〉

行政行為は、必ずしも書面で行われる必要はなく、法令に特段の定めがない限り、書面の他、口頭で行うこともできる。(形式自由の原則)

〈行政行為の効力発生〉

行政行為は、その意思表示が相手方に到達した時に効力を生じる。(発信ではない。)


〈行政行為の瑕疵〉

瑕疵のある行政行為⇒ 違法または不当な行政行為のこと。
※ 瑕疵のある行政行為は取消しの対象。(無効や撤回もある。)
※ 法律に違反しているわけではないが、公益に適合しないなど行政のやることとしてふさわしくないこと。

〈取消しと無効〉

~ 瑕疵のある行政行為 ~

取消しの対象となる。(行政行為である処分が違法なとき)
※ 取消されるまでは一応有効で、公定力がある

~ 重大かつ明白な瑕疵がある行政行為 ~

無効となり、公定力はない。(初めから効力がない)
※ 瑕疵が明白であるかどうかは、当該処分の外形上、客観的に誤認が一見看取(察知)しうるものかどうかで決すべきものとされている。(最判昭36.3.7)
※ 課税処分における内容の過誤が課税要件の根幹にかかわる重大なものである場合に、明白性の要件が認められなくても、当該課税処分を当然に無効とするとした判例もある。(最判昭48.4.26)
※ 重大かつ明白な瑕疵がある場合、不可争力も生じない無効なので、出訴期間等の制限を受けることなくいつでも主張でき、一定期間をすぎたら取消しを求めて争えないとする必要がないから。


〈取消しと撤回〉
※ 行政手続法13条1項では、処分を取り消すにあたり聴聞という意見陳述の機会をとることが要求されているが、撤回も聴聞を必要とする対象となる。
※ 条文上「取消し」と表記されていても、後発的事情が理由であれば、行政法の分類上は「撤回」と呼ばれる。
※ 取消も撤回も、法律の根拠が必要。

取消し⇒ 行政行為である処分に瑕疵があって、その行政行為(原始的瑕疵)の瑕疵を理由に取り消す。(懲戒処分を受ける理由もないのにされた懲戒処分を取り消すこと。)
※ 処分のときにさかのぼって効力がなかったことになる。(遡及効)

撤回⇒ 行政行為である処分に瑕疵はなかったが、後発的事情(後発的瑕疵)を理由として撤回する。(道路交通法違反を理由に自動車の運転免許を取り消すこと。)
※ 撤回のときから後は、効力がないことにする。(将来効)


〈違法性の承継〉

数個の行政行為が連続して行われており、先行行為に瑕疵がある場合、その瑕疵が後行行為にも承継されることを違法性の承継という。

※ 先行行為である安全認定を受けて、後行行為である建築確認がされている場合、先行行為である安全認定に瑕疵があれば、後行行為である建築確認事態には瑕疵が無くても、先行行為の瑕疵が承継されてその瑕疵を理由に後行行為の建築確認の取消しを求めることができる

※ 土地収用法における事業認定と収用裁決。(違法性の承継あり。)
※ 農地買収における農地買修計画と農地買収処分。(違法性の承継あり。)
※ 建築確認における安全認定と建築確認。(違法性の承継あり。)
※ 租税賦課処分と租税滞納処分。(違法性の承継なし。行為が別々の目的)


〈瑕疵があっても有効扱いされる場合〉
※ 相手方の信頼保護などの観点から有効あつかいされることがある。

~ 瑕疵の治癒 ~
行政行為時に存在した瑕疵が、その後の事情により、実質的に適法要件を具備した場合、当該行為を適法扱いすること。
※ 瑕疵の治癒は、軽微な瑕疵のときに認められる。無効になるような重大かつ明白な瑕疵は対象ではない。
※ 会議のメンバー全員に招集通知を送るべきだったのに通知漏れがあったが、実際には全員が出席して会議が開かれて決議した場合。

~ 違法行為の転換 ~
本来は違法な行政行為であるが、これを別の行政行為としてみたとき適法要件を充足している場合、瑕疵のない行政行為として有効なものとして取り扱うこと。
※ 行政庁が転換して有効扱いする場合は、裁判所による宣言を得る必要はない
※ 死者に対して土地の買収処分をしたときに、これをその相続人に対してしたものと読み替えて有効な買収処分であったとする場合。

~ 事実上の公務員の理論 ~
権限のない公務員(行政機関)が行った行政行為だとしても、外観上公務員の行為として行われており、行政行為の相手方が権限のある公務員がしたものであると信頼するだけの相当な理由があるときにそのような行政行為でも有効なものとして扱うこと。
※ 市長Aが解職請求(リコール)を受けて失職したが、その後、失職が無効となったとき、法律上はAは失職していなかったことになるが、その間、後任の市長B名義で発行されていた住民票は有効なままとする場合。


〈判例〉

※ 農地買収計画に対して不服申立てがあったにもかかわらず、当該不服申立てに対する結論を待たずにその後の手続き(農地買収処分)を進行させることは違法だが、後で棄却の判断がされたときは、不服申立ての結論を待たずに行った農地買収処分の違法の瑕疵は治癒される。(最判昭36.7.14)
※ 税務署長による更正処分における理由附記の不備の瑕疵は、国税局長による当該処分に対する不服申立てについての結論が示される段階において当該処分の理由が示された場合でも、当該処分による理由附記の不備の瑕疵は治癒されない。(最判昭47.12.5)


〈行政裁量〉

法律で大枠のルールだけを決めておいて、実際にどのような行政行為をするかの判断は行政庁に任せることを行政裁量という。

法律「○○○のときは、△△△の処分をすることができる。」とあるとき。

※ 対象者がAという行為をしたとき、「○○○のとき」に該当するかどうかの判断を任せるのが要件裁量
※ ○○○に該当するとして、実際に「△△△の処分」をするかどうかの判断を任せることを効果裁量という。

国家公務員法82条1項3号
職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。

三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合

例)国家公務員が無断欠勤した。

※ 公務員が無断欠勤をした場合、それが「非行」という要件にあたるかどうかの判断をすることを要件裁量という。
※ 「非行」にあたるとして、懲戒処分をするかどうかの判断、また、処分するとしてどの処分にするのかを判断することを効果裁量という。
※ 要件に該当したからといって必ず処分をしなければならないのではなく、その裁量は、任命権者に委ねられている
※ 他の法律や法の一般原則に違反したり、判断過程で考慮すべきことが考慮されてなかったり、法定されている手続きを無視したりすれば、違法な処分とされる。


〈裁量に対する司法審査〉

行政庁の処分が、裁量権の範囲を超え、または、その濫用があるといえる場合は違法となる。(裁量行為も裁判所による司法審査の対象となる。)

~ 裁判所で裁量行為が違法かどうかを審査する手法 ~

※ 法律の趣旨・目的とは異なる目的や動機に基づいて処分が行われていないかどうかを審査したり、比例原則(小さな違反には小さな制裁というように、制裁の大きさは違反の程度に比例すべきという原則)、平等原則信義則といった法の一般原則に違反しないかといった観点から審査することを実体的審査という。

※ 処分をしたことの結果ではなく、その判断の過程に、本来考慮すべきことを十分に考慮していないことや、本来考慮すべきでないこと過分に考慮したりしていないかなどについて審査することを判断過程審査という。
※ 処分そのものではなく、その処分をするにあたり法律が要求している手続き違反したかどうかについて審査することを手続的審査という。


※ 外国人の在留期間更新不許可の違法性が争われたことに対し、更新の拒否について法務大臣に裁量を認め、更新不許可は裁量の逸脱・濫用にあたらず、違法ではないとした。(マクリーン事件:最大判昭53.10.4)
※ 公立学校が信仰上の理由による剣道実技の履修拒否に対し、代替措置を何ら検討することなく、留年・退学の処分にしたことの違法性が争われたことに対し、学校長は合理的な裁量に基づいて処分するかどうかを判断すべきものであるが、本件の場合、考慮すべき事項を考慮しておらず、裁量権の範囲を超え、違法であるとした。(エホバの証人剣道実技拒否訴訟:最判平8.3.8)
※ 個人タクシー事業の免許に当たり申請人に対して公正な手続によって免許の許否につき判定すべきところ、それに反する審査手続により免許申請を却下したことに対し、公正な手続によって免許申請の許否につき判定を受けるべき申請人の法的利益を侵害するものとして当該却下処分は違法であるとした。(個人タクシー事件:最判昭46.10.28)(法定の手続きを無視したら違法)
※ 公務員に対する懲戒処分がされた場合、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当を欠く裁量権を濫用したと認められるときは違法と判断すべきものであるとした。(神戸税関事件:最判昭52.12.20)
※ 公立学校の目的外使用許可をするか否かは管理者の裁量に委ねられており、管理者は、諸般の事情を考慮した上でその裁量に基づいて許可をするかどうかを判断すべきものであるとした。(最判平18.2.7)
※ 教科書検定の審査・判断は、学術的・教育的な専門技術的判断であるといえ、文部科学大臣の裁量に委ねられる。(最判平5.3.16)
※ 生活保護基準中の老齢加算に係る部分の改定に際し、最低限度の生活を維持する上で老齢であることに起因する特別な需要が存在するといえるか否かを判断するにあたっては、厚生労働大臣の裁量に委ねられる。(最判平24.2.28)
※ 公害健康被害の補償等に関する法律に基づく水俣病の認定は、客観的事象としての水俣病の罹患の有無という客観的事実を確認する行為といえ、その判断は行政庁の裁量に委ねられるべきものではない。(最判平25.4.16)
※ 建築主事が建築確認申請について行う建築確認処分の場合、建築確認処分をするかどうかについての裁量は認められない。(品川マンション事件:最判昭60.716)(建築確認は裁量が認められない例として有名な判例)


〈行政行為の附款〉

申請に対して許認可を与える場合、行政行為の効果を限定するために付される行政庁の従たる意思表示のことを附款という。

~ 道路占用許可 ~
「道路の占用を許可する。(特許を付与するという行政行為が主たる意思表示)ただし、占用料の納付を命じる。(負担を求める附款が従たる意思表示)」

※ 法令が附款をすることを認めている場合は附款できる。
※ 行政庁に裁量が認められている場合は法令が認めてなくても附款できる。
※ 意思表示を要素とする法律行為的行政行為には附款をすることが認められている。意思表示を要素としない準法律的行政行為には附款をすることは認められていない。
※ 許認可処分に附款が付されることはある。


条件⇒ 行政行為の効果を将来発生不確実な事実にかからせる意思表示
(工事の開始を条件とする下命 「○○を禁止とする。ただし、工事が始まってからとする。」)

期限⇒ 行政行為の効果を将来発生確実な事実にかからせる意思表示
(有効期限を付ける許可 ○○を許可する。ただし、〇年〇月〇日までとする。」)

負担⇒ 行政行為に付随して相手方に対して特別の義務を課す意思表示
(金銭の負担を付す許可 「○○を許可する。ただし、○○円を支払うこと。」)
※ 負担の不履行があったとしても行政行為自体の効力が当然に失われるわけではない。なお、後発的事情として行政行為が撤回されることはありえない。)

撤回権の留保⇒ 一定の場合に行政行為を撤回する旨の権利を留保する意思表示。(撤回権を留保して行う許可 「○○を許可する。ただし、地域の風紀を乱すと撤回する。」)

法律効果の一部除外⇒ 法令上行政行為に認められる効果一部を除外する意思表示(本来の法律効果を除外して行う下命 「出張を命じる。ただし、旅費は支給しない。」)
※ 法律効果の一部除外は、法律で定められた効果を行政庁の意思表示で除外するため、法律にそれを認める根拠があるときに付すことができる。


〈附款の瑕疵〉

 附款に瑕疵があり、当該附款が行政行為と不可分一体の関係といえるなど行政行為の重要な要素である場合は、行政行為全体が効力を失う。一方、重要な要素でない場合は、附款だけが効力を失う



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