取得時効… 一定期間の経過により権利を取得できる制度。
時効による所有権の取得… 占有が一定期間続くことにより、所有権の取得が認められることがある。〈要件〉①所有の意思がある。②平穏公然と他人の物を占有。③善意無過失の場合は10年、悪意または有過失の場合は20年の占有継続。〈効果〉所有権を取得できる(原始取得:最初からその人が取得したと扱うこと)
占有の承継…占有期間の計算は前の占有者の占有を足して計算することもできる。
※ B所有土地をCが善意無過失で3年占有し、占有がAに承継され、Aが善意無過失で7年占有した。⇒ 善意無過失の占有10年として、時効が完成。
※ B所有の土地をCが悪意で3年占有し、占有がAに承継され、Aが善意無過失で7年占有した。⇒ 悪意の占有10年として、時効は完成しない。(Aは善意無過失でも、Cの占有期間を承継するなら、悪意で始まったものとして計算する。その場合あと10年占有が必要。)
※ B所有土地をCが善意無過失で3年占有し、占有がAに承継され、Aが悪意で7年占有した。⇒ 善意無過失の占有10年として、時効が完成。(Aは悪意でも、Cの占有期間を承継するなら、善意無過失で始まったものとして計算する。)
消滅時効… 一定期間の経過により権利を消滅させる制度。
債権… 消滅時効⇒ 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効によって消滅する。(いづれかの期間が満了すると消滅時効が完成)
※ 人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については、10年間ではなく20年間で計算。(保護法益として、より重要だから。)
物権… 債権または所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。(所有権は時効によって消滅することはありません。また、所有権に基づく物権的請求権も同様。)
時効の援用・放棄… 時効取得や消滅時効の利益を得るためには、時効の利益を受ける意思を表示する必要がある。(時効の利益を主張することが必要。)
時効の援用…時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。(債務が10年経てば当然消滅するのではなく、10年経って時効の利益を援用すれば消滅する。)
※ AB債権の時効を援用できる者
☆保証人、連帯保証人(Bの債権を保証したC)☆物上保証人(Bの債権の担保のために自分の土地に抵当権を設定したC)☆抵当権の第三取得者(Bが自分の土地に抵当権を設定し、その抵当不動産をBから購入したC)☆詐害行為の受益者(Bの詐害行為によってB所有の財産を取得したC)
※ 後順位抵当権者Cと時効の援用…BがAからお金を借りる時に抵当権をB所有の建物に抵当権を設定(一番抵当権者A)した後、BがCからお金を借りるときも同じ建物に2番抵当権を設定(二番抵当権者C)。AのBに対する債権の消滅時効を援用できるか。⇒ 後順位抵当権者Cは、先順位抵当権者AがBに対して有する債権の消滅時効を援用できない。(AのBに対する債権が消滅すれば自分の債権を優先的に回収できるだけ。直接利益を受けるものとは言えない。)
※ 建物賃借人と時効の援用…BがA所有土地を占有開始し、自分で建物を建て、Cに貸している。BのA所有土地の所有権の取得時効を援用できるか。⇒建物賃借人Cは、賃貸人BのAが所有する土地に対する所有権の取得時効を援用できない。(直接利益を受ける者とは言えない。)
※ 時効利益の放棄…時効完成後に放棄することはできるが、時効完成前にあらかじめ放棄することはできない。(契約時点で将来時効が完成しても放棄すると一筆書かせていてもそれは無効という意味。)
※ 消滅時効が完成した後に債務を承認する行為をした場合、たとえ完成の事実を知らないでしたときでも、その時効の援用はできなくなる。(援用を認めないことが信義則上相当とされる。)
時効の更新…時効が完成する前に権利の承認があったときは、時効は更新され、その時から新たにその進行を始める。時効の更新は、その事由が生じた当事者およびその承継人の間においてのみ、その効力を有する。(AとBがXに連帯債務を負っている場合、Aが時効完成前に時効の承認をしたとしても、その効果はXA債権にだけに及び、Bには関係ないので、XBの債権についての時効が更新されるわけではない。
〈時効の完成猶予〉
裁判上の請求があった場合、訴えを提起した時点でいったん時効の完成が猶予される。確定判決などにより権利が確定するまでの間は、時効は完成しない。
催告… 催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しない。催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、時効の完成猶予の効果を有しない。(催告による時効完成猶予は1回きりの効果。)
協議を行う旨の合意があったときは、その時から1年を経過するまでの間は、時効は完成しません。合意によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の合意は、時効の完成猶予の効力を有する。(協議を行う旨の合意によって時効の完成が猶予されている間にされた催告や、催告によって時効の完成が猶予されている間にされた合意については、時効の完成猶予の効力を有さない。
成年被後見人の時効の満了前6か月以内に成年被後見人に法定代理人がなく、その後、別の者が後見人となった場合は、その者が後見人となった時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しない。
時効の期間の満了の時にあたり天災その他避けることのできない事変のため時効の完成猶予および更新の手続きを行うことができない場合、その障害が消滅した時から3か月を経過するまでの間は時効は完成しない。