18.詐害行為取消権

詐害行為取消権… 強制執行の準備として、債務者が債権者を害することを知りながらその財産を減らすような行為をしたときに、債権者がその行為を取り消すことができる権利

※ AがBに対して金銭債権(500万円)を有しているのに、BがCに土地の贈与(1000万円)をした場合。BC間の贈与契約を詐害行為として取り消すことができる要件。(A=債権者、B=債務者、C=受益者)
① Cがその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、Aの詐害行為取消権は認められない。(⇔ 受益者も悪意の時は、認められる。)
② BCの行為が財産権(物権や債権)を目的としない行為の場合、詐害行為取消請求の規定は適用されない。(⇔ 物権や債権のときは、認められる。)
③ Aは、AB債権がBC行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる

〈詐害行為の対象〉
※ 遺産分割協議は、詐害行為の対象となる
※ 離婚による財産分与は、分与が不相当に過大であり、財産隠しのために行われる場合は、詐害行為の対象となる。(⇒ 原則対象にならない。)
※ 不動産の売買は、債務者が不動産を現金化することにより隠匿等の処分をするおそれを現に生じさせるものであり、その行為の当時、債務者隠匿等の処分をする意思を有しており受益者債務者が隠匿等の処分の意思を有していたことを知っていたときは、詐害行為の対象となる。(⇒ 原則対象にならない。)
※ 特定の債権者に対する弁済は、弁済が債務者が支払い不能の時に行われたものであり、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたときは、詐害行為の対象となる。(過大な代物弁済がされた場合、弁済そのものが詐害行為にあたらないときでも、過大な部分の取り消しは可能。)
※ 贈与契約… 上記の①、②に当てはまらず、③のとき対象となる
※ 相続放棄… 身分行為なので対象とならない

〈被保全債権〉
強制執行できない債権… 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない

〈被保全債権の発生時期〉… 債権者は、その債権が詐害行為の前の原因に基づいたものである場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる。

AB間で債権発生原因が生じ(4月10日)、BC間でAを害することを知りながらB所有の土地(Bの唯一の資産)をCに贈与した(4月20日)。その後、AB間に債権が実際に発生した(4月30日)。⇒ 債権が詐害行為の前の原因に基づいて生じたものであるため、詐害行為取消請求をすることができる

〈詐害行為取消請求〉… AがBに対する債権を有し、BがAを害するためにCに土地を贈与した場合。
① 行使の方法⇒ 裁判で行わなければならない。(⇔ 債権者代位は、手紙でもOKだった。)
② 行使の範囲⇒ 不動産のように不可分な場合は、被保全債権を超える行使をすることができる。(⇔ 金銭債権は可分なので、できない。)
③ 直接給付ができるか。⇒ 金銭の支払いや、動産の引渡しは、直接給付できる。(⇔ 不動産登記移転は、直接移転させることができない。)

〈財産の返還〉… 債権者Aは、受益者Cに対する詐害行為取消請求において、債権者Bがした行為の取り消し請求ともに、その行為によって受益者Cに移転した財産の返還を請求することができる。受益者Cがその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者Aは、その価額の償還を請求することができる

〈被告〉… 受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴えは、受益者を被告とする。

〈訴訟告知〉… 債権者Aが、債務者Bが受益者Cに行った詐害行為の取消請求につき、Cを被告として訴えを提起した場合、遅滞なく債権者Bに対し、訴訟告知をしなければならない。


転得者の登場
〈転得者に対する詐害行為取消請求〉

債権者Aは、受益者Cに対して詐害行為取消権請求をすることができる場合において、受益者Cに移転した財産を転得した者があるときは転得者D転得の当時債務者Bがした行為が債権者を害することを知っていたときは、転得者Dに対しても詐害行為取消請求をすることができる
※ 債権者A→ 債務者B→ 受益者C(悪意)→ 転得者D(悪意)⇒できる
(この時、転得者Dの悪意は、債権者が証明する必要がある。)

債権者Aは、BC間でAを害する贈与行為が行われたが受益者Cが善意であり、詐害行為取消権をCに対して請求できないときに、受益者Cに移転した財産を移転した転得した者があるときは転得者D転得の当時債務者Bがした行為が債権者を害することを知っていたとしても転得者Dに対して詐害行為取消請求をすることができない
※ 債権者A→ 債務者B→ 受益者C(善意)→ 転得者D(悪意)⇒できない
(Cに対してできないことは、Dに対してもできないということ。)


〈財産の返還〉… 債権者Aは、転得者Dに対する詐害行為取消請求において、債権者Bがした行為の取り消し請求ともに、その行為によって転得者Dに移転した財産の返還を請求することができる。受益者Cがその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者Aは、その価額の償還を請求することができる

〈被告〉… 転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴えは、転得者を被告とする。

〈訴訟告知〉… 債権者Aが、債務者Bが受益者Cに行った詐害行為の取消請求につき、Cからの転得者Dを被告として訴えを提起した場合、遅滞なく債権者Bに対し、訴訟告知をしなければならない。


〈取消の効力の及ぶ範囲〉
詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者およびその全ての債権者に対してもその効力を有する。

※ A、D、EがBに対して、それぞれ500万円の債権を有していたところ、BがCに対して土地(1200万円)の贈与をした。AがBに対してCに対してなされた贈与契約を詐害行為にあたるとして取り消した場合。⇒ Aは、土地全部の取消しを求めることができるが、土地はBのところに戻ってADE全員の債権の回収のために平等に分配される。(Aに300万円、Bにも300万円、Cにも300万円というように分配される。)

〈債務者の受けた反対給付に関する受益者の権利〉
債務者が受益者の土地を売却した行為が債権者の詐害行為取消請求によって取り消された場合、土地は債務者に返還される。そのとき、受益者は債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる

※ AがBに対して500万円の債権を有している。→ BからCに対してなされた売買契約を詐害行為に当たるとしてAが取り消した。→ 土地はBに返還される。→ CがBから土地を取得するために500万円を払っていたときは、CはBに対してその代金500万円を返還請求することができる
Cがこの土地を300万円でDに転売していた場合、AがDを被告として行った詐害行為取消請求によって取り消されたときは、Dは300万円を限度として、CのBに対する反対給付返還請求権を行使できる。)

〈期間制限〉
詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは、提起できなくなる。また、行為の時から10年を経過したときも同様に提起できなくなる

PAGE TOP