弁済… AB間でA所有の時計を売買する契約が結ばれた場合、Aが時計をBに引渡し、Bが代金をAに支払えば、時計の引渡し債権と代金の支払債権は消滅する。これらの行為を弁済と言う。
〈弁済の場所・時間〉
当事者間で特別な約束がないときの弁済の場所。
特定物引渡しの場合⇒ 債権発生の時にその物が存在した場所。
特定物引渡し以外の弁済の場合⇒ 債権者の現在の住所地。
法令または慣習により取引時間の定めがあるとき⇒ その取引時間内に限り、弁済をし、または弁済の請求をすることができる。
〈受領証書・債権証書〉
弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受領証書の交付を請求することができる。また、債権証書がある場合、弁済をした者が全部の弁済をしたときは、その証書の返還を請求することができる。
〈弁済の提供〉
弁済の提供… 債務者が債務の履行のために必要な準備をして、債権者に提供すること。
※ 債務者は、弁済の提供をしておけば、債務不履行責任を免れることができる。
弁済の提供… 時計を持参して引き渡す場合であれば、実際に引き渡すべき時計を用意して債権者の面前に提示するなどして、債権者が受け取ろうとすれば受け取れる状態に置くこと。
例外)口頭の提供で足りうる場合。(債務者が弁済の準備をし、それを債権者に通知し、その受領を催告すること。)
例外① 債権者があらかじめその受領を拒んでいるとき。(債権者が、約束の日に留守にしていることが分かっているときなど。) ② 債務の履行について債権者の行為を要するとき。(債権者が取りに来たら渡す約束のとき。)
※ 債権者が契約の存在を否定しているなど債務を履行しない意思を明確にしている場合は、口頭の提供も必要ない。
〈第三者弁済〉
債務者以外の者でも債務者の債務を弁済することは可能。
例)BがAの土地を借りて建物を築造し、その建物をCに貸している場合、建物賃借人Cは、BがAに対して支払う土地の賃料について代わりに払うことができます。
AがBに対して10万円の債権を有していたところ、CがBの意思に反して10万円を弁済した場合。
※ Cが弁済をする正当な利益を有する場合。⇒ CのAに対する弁済は有効。
※ Cが弁済をする正当な利益を有せず、Bの意思に反する弁済であることをAが知らない時。⇒ CのAに対する弁済は有効。
※ Cが弁済をする正当な利益を有せず、Bの意思に反する弁済であることをAが知っている時。⇒ CはAに対して弁済できない。
※ Cが弁済をする正当な利益を有せず、Aの意思に反するとき。⇒ CはAに対して弁済できない。
※ Cが弁済をする正当な利益を有せず、Aの意思に反するが、CがBの委託を受けて弁済しており、そのことをAが知っている時。⇒ CのAに対する弁済は有効。
〈受領権者としての外観を有する者に対する弁済〉
債権者やその代理人など受領権限のある者以外に弁済をしても、その弁済が当然に有効となるわけではない。ただし、受領権者としての外観を有する者に対する弁済の場合、弁済者が善意無過失で弁済したときは、その弁済は有効となり、債権は消滅する。
AがBに対して100万円の金銭債権を有していたところ、Bが受領権者としての外観を有するCに対して、善意無過失で弁済した。⇒ 弁済は有効となり債権は消滅する。(AはBには100万円の支払を請求できないが、Cを保護するための仕組みではないのでCから回収することはできる。)
※ 受領権者の外観を有する者。⇒ B銀行にA名義の預金通帳と届出印を持参したC。詐欺代理人。偽造された領収書を持参した者。
※ 受領権者としての外観を有する者に対する定期預金の期限前払戻特約に基づく払戻。⇒ 弁済は有効になり債権は消滅する。
※ 定期預金を担保にした融資につき、銀行が貸金債権と定期預金債権を相殺。⇒上記規定の類推適用により、有効な相殺と評価される。
〈弁済の充当〉
債務者の弁済した金額が、元本、利息、費用の合計額に満たない場合、これを順次、費用、利息、元本に充当しなければならない。
なお、弁済者と弁済受領者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従い充当する。
※ 弁済すべき額は元本100万円、利息5万円、費用500円だったのに対し、弁済額が100万円であれば、費用500円、利息5万円、元本94万9500円支払ったことになり、元本が5万500円残ります。
〈代物弁済〉
弁済者が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。
※ 代物弁済の対象となった者の所有権が債権者に移転する時点は契約の時。債務者の債務が消滅する時点は物の給付をした時。
〈弁済供託〉
弁済者は、①弁済の提供をしたのに債権者がその受領を拒んだとき。②債権者が弁済を受領することができないとき。③弁済者が過失なく債権者を確知することができないときは、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。
※ 供託があった場合、供託をした時に弁済者の債務は消滅する。
〈弁済による代位〉
債務者のために弁済をした者は、債権者に代位する。
債権者Aが債務者Bに対して300万円の金銭債権を有し、B所有の土地には抵当権が設定されている。Cを保証人、D所有土地の第三取得者、Eをもう1人の保証人とした場合。
① 保証人Cが債務者Bの債権をAに弁済した場合、第三取得者Dに代位できる。
② 第三取得者Dが債務者Bの債務をAに弁済した場合保証人Cに代位できない。
③ 保証人Cが債務者Bの債務をAに弁済した場合、他の保証人Eに代位できる。
※ 保証人の1人が他の保証人に対して債権者に代位する場合は自己の権利に基づいて他の保証人に求償できる範囲内に限られる。(CがDに代位できるのは150万円について)。
相殺(そうさい)… お互いに金銭債権を持ち合っているとき、実際に現金で決済しなくても意思表示だけで支払ったことにできる制度。
〈相殺の要件〉
AがBに対して100万円の金銭債権を有し、BもAに対して100万円の金銭債権を有している場合。
※ AからBに「相殺します。」と意思表示があった場合、AのBに対する債権が自働債権、相殺に使われるBのAに対する債権を受働債権と呼ぶ。
☆ 要件
① 双方の債権が対立していること。
② 双方の債権が同種の目的を有すること。
③ 双方の債権が弁済期にあること。
④ 双方の債権が有効に存在すること。
⑤ 相殺を許す債務であること。
☆ 効果
債権債務の消滅
〈相殺の効果〉
相殺は、相殺適状【そうさいてきじょう】(相殺が可能となった状態のこと)になったら勝手に相殺されるわけではなく、相殺の意思表示をすることで効力を生じる。これにより双方の債権債務は相殺適状の時にさかのぼって消滅したことになる。
〈弁済期と相殺〉
本来、相殺には双方の債権が弁済期のあることが要求される。でも、実際には、自働債権が弁済期にあれば、期限の利益は放棄できるため、受働債権は必ずしも弁済期にある必要はない。
〈時効消滅と相殺〉
時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合、債権者は、この債権を自働債権として相殺することができる。
〈不法行為と相殺〉
① 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務や、②人の生命または身体の侵害による損害賠償の債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することはできない。(例えば、時計を壊した弁償代があった場合、悪意で壊していたら、加害者からは相殺できないが、悪意がなくて壊していたら、加害者からも相殺できる。(509条)
〈差押えと相殺〉
差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできない。一方、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。(511条1項)
差押え後に取得した債権であっても、それが差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。(511条2項)
AとBはお互いに貸金債権を持ち合っている。また、CはBに対して貸金債権を有している。BがCにお金を払わないので、Cが、BのAに対する貸金債権を差し押さえた場合。AからBに相殺できるのは、AのBに対する貸金債権が、Cの差押え前から取得されている場合である。(⇔ Cの差押え後の原因に基づき取得されたものであれば、AからBに相殺できない。)
〈相殺制限の意思表示〉
当事者が相殺を禁止または制限する旨の意思表示をした場合、その意思表示は、第三者が悪意または重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。(505条2項)
例)AがBに対して有する債権に相殺禁止の特約があっても、その債権が善意無過失のCに譲渡された場合、この特約をCに対抗することはできない。Cがこの債権とBがCに対して有する債権で相殺することは可能。
〈その他の債権消滅原因〉
更改… 当事者が更改契約により従前の債務に代えて新たな債務を発生させた場合、従前の債務は更改によって消滅する。(513条)
免除… 債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は消滅する。(519条)
混同… 債権および債務が同一人に帰属したときは、その債権は消滅する。(520条)
更改→ ①従前の給付の内容について重要な変更をするもの。②従前の債務者が第三者と交替するもの。③従前の債権者が第三者と交替するもの。のいずれかを発生させることが必要。