32.賃貸借契約

賃貸借契約は、当事者の一方がある物の使用・収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことおよび引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる契約(601条)

賃貸借の相続期間は最長50年。(604条1項)


〈賃貸借の対抗要件〉
不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。(605条)。(民法だけでなく、借地借家法にも、もっと簡易的な対抗要件も定められている。)

※ 建物所有目的土地を賃借した者が、土地上に建物を築造し、その登記をしておけば、土地賃借権の登記はしなくても借地権を第三者に対抗できる。(借地借家法10条1項)
※ 建物を賃借した者が、建物の引渡しを受けていれば、建物賃借権の登記はしなくても借家権を第三者に対抗できる。(借地借家法31条)


〈賃借人の地位の移転〉
不動産の賃貸借が対抗要件を備えた場合、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。(605条の2第1項)

また、不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲渡人に移転させることができる。(605条の3)

Aが所有する建物をBに賃貸している場合。AC間の合意により建物所有権をCに譲渡したとき。
※ AがCに賃貸人たる地位を移転するのにBの承諾は不要。(605条の3)
※ Cが賃貸人たる地位をBに対抗するには、所有権の移転登記をしておくことが必要、(605条の2第3項)
※ 賃貸人に対する費用の償還に係る債務や敷金の返還に係る債務は、Cが継承する。(605条の2第4項)


〈賃借人の妨害停止請求〉
不動産の賃借人は、賃借権について対抗要件を備えた場合、賃借権に基づいて、その不動産の占有を第三者が妨害しているときに、その第三者に対して妨害の停止を請求することができる。(605条の4第1号)
(対抗要件をを備えていなくても、賃貸人の所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使することができる。


〈賃借物の修繕〉

人による修繕… 賃貸物の使用収益に必要な修繕をする義務は、賃人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときを除き、賃人が行う。(606条1項)
人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃人は、これを拒めません。(606条2項)
賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合、そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは、賃借人は、契約を解除することができる。(607条)

人による修繕… 賃借物の修繕が必要である場合において、① 賃借人が賃人に修繕が必要である旨を通知し、または賃人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないときや、② 急迫の事情があるときは、賃人は、その修繕をすることができる。(607条の2)


〈費用の支出〉
人が必要費有益費を支出した場合、賃人に対して、その償還請求できる。(608条)
人が支出した費用の償還は、賃人が返還を受けたときから1年以内請求しなければならず、契約の本旨に反する使用・収益によって生じた賠償についても同様。(600条1項)

必要費… 賃人は、賃借物について賃人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還請求をすることができる。(608条1項)

有益費… 賃人は、賃貸物について有益費(物の価値を増加させる費用のこと)を支出したときは、賃人は、賃貸借の終了の時に、価格増加が現存している限り、賃人の選択により、支出された金額または増価額のいずれかを償還しなければならない。(608条2項本文)
裁判所は、賃人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。(608条2項)


〈賃借物の滅失〉

一部滅失… 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用・収益することができなくなった場合、それが賃人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用・収益をすることができなくなった部分割合に応じて減額される。(611条1項)
また、この場合、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃人は、契約を解除できる。(611条2項)

全部滅失… 賃借物の全部が滅失その他の事由により使用・収益をすることができなくなった場合、賃貸借は、これによって終了する。(616条の2)


〈敷金〉
賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる人の賃人に対する金銭の給付を目的とする債務担保する目的で、賃人が賃貸人に交付する金銭のことをいう。
人は、敷金を受け取っている場合、①賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときや、②賃借人が適法に賃借権譲り渡したときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額控除した残額を返還しなければならない。(622条の2第1項)
※ 未払いの賃料が発見された場合、賃人の方から敷金をその債務の弁済に充てることはできるが、賃人の方から敷金をその弁済に充てることを請求することはできない

の譲渡と敷金の継承〉
AがBに貸している建物をCに売却し、Cが新しい人となった場合、Bが賃貸借契約時にAに敷金を支払っているときに、敷金関係がCに継承される

の譲渡と敷金の継承〉
BがAから建物を借りていたが、Aの承諾を得て賃借権Cに譲渡し、Cが新しい人となった場合、Bが賃貸借契約時にAに敷金を支払っていたとしても、その敷金関係は、Cに継承されない


〈賃借権の譲渡転貸〉

無断譲渡… 賃貸借契約は信頼関係に基づく契約なので、賃人の承諾なく賃借権の譲渡・転貸をすることは認められていない。(612条1項)
無断譲渡・転貸をした場合、賃人は、賃貸借契約を解除することができる。(612条2項)

BがAから建物を借りている場合。
※ Bが賃権をAの承諾なくCに譲渡したとき。⇒ 無断譲渡・転貸は、賃貸借契約の解除原因となる
※ Bが借りている建物をAの承諾なくさらにCに転貸したとき。⇒ 無断譲渡・転貸でも、賃人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合は、612条2項の解除権は発生しない。(最判昭28.9.25)

※ 無断転貸があった場合、賃貸人は、賃貸借契約を解除しなくても、譲受人・転借人に対して賃借物の明渡し請求できる。(最判昭26.5.31)

※ 賃貸人は、直接転借人に対して賃料の支払いを請求できるが、その額は転借人が知借人に支払う額の範囲内に限られる。

※ 賃貸人の地位と転借人の地位とが同一人に帰した場合であっても、転貸借は、当事者間にこれを消滅させる合意が成立しない限り、消滅しない。(最判昭35.6.23)

承諾転貸賃貸借契約の解除… 

人Aの承諾を得てBが賃借建物をCに転貸している場合、AはBの債務不履行を理由としてAB間の賃貸借契約を解除したことをCに対抗できる。(Cは転貸借の期間満了前でも建物を明け渡して出ていかなければならないということ。)

人Aの承諾を得てBが賃借建物をCに転貸している場合、AB間の合意により賃貸借契約を解除したことをCに対抗できない。(613条3項本文)(Cは、転貸借の期間中は建物を明け渡す必要はないということ。)


〈賃貸借の終了〉

期間の定めのある賃貸借… 期間の満了をもって終了する。(622条、597条1項)。

期間の定めのない賃貸借… 当事者はいつでも解約の申し入れをすることができる。解約の申し入れがあったときは、解約の申し入れの日から一定期間経過後に賃貸借は終了する。(617条1項)

賃貸借契約の解除… 賃貸借契約が解除された場合、賃貸借契約の効力は失われる。

人の原状回復義務… 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用・収益によって生じた賃借物の損耗、賃借物の経年変化を除く)がある場合、賃人の責めに帰することができない事由によるものであるときを除き、賃貸借が終了した時は、その損傷を原状に復する義務を負う。(621条)

※ 賃貸借契約の場合、貸主が死亡しても契約の効力は失われないが、使用貸借契約の場合、貸主の死亡によって終了する。(597条3項)

※ 賃貸借契約解除は、将来に向かってのみその効力を生じる。(620条本文)

※ 契約が終了したときは、賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに付属させた物は収去する義務を負う。(622条、599条1項)


※ 賃人が賃人の信頼関係を破壊し、賃貸借契約の継続を著しく困難にした場合は、賃人は、催告をすることなく、賃貸借契約を解除できる。(最判昭27.4.25)

※ 土地の賃貸人と賃人が契約を合意解除した場合でも、土地の賃人は、特段の事情のない限り、解除をもって賃人が所有する借地上の建物の賃借人に対抗することができない。(最判昭38.2.21)

※ 土地・建物の賃人は、賃借物に対する権利に基づき自己に対して明渡しを請求することができる第三者からその明渡しを求められた場合それ以後、賃料の支払いを拒絶することができる。(最判昭50.4.25)

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