38.不法行為

不法行為… 故意または過失により他人の権利法律上保護された利益侵害した場合、その損害は加害者に賠償させるべきという概念。


〈不法行為の要件と効果〉

成立要件
故意または過失によって他人の権利または法律上保護された利益侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(709条)

AがBからの加害行為によりケガを負わされた場合。
〈不法行為の成立要件〉
① 被害者に損害が発生していること。
② 加害者が加害行為をしたこと。
③ 損害加害行為相当因果関係があること。
④ 加害者に故意または過失があること。
⑤ 加害行為が違法なものであること。
⑥ 加害者に責任能力(大体11~12歳くらい)があること。
〈効果〉
損害賠償請求権の発生
※ 失火の場合には、失火責任法という特別ルールがあり、過失はあってもそれが重大な過失と言えないときは責任を負わなくてもよいものとされている。

〈違法性阻却〉(いほうせいそきゃく)
他人の不法行為に対し、自己または第三者の権利または法律保護される利益を防衛するためやむを得ず加害行為をした場合には、正当防衛が成立する。(720条1項)また、他人の物から生じた急迫の危機を避けるためその物を損傷した場合には、緊急避難が成立する。

Bからの不法行為に対してAが防衛のためにやむを得ずCを突き飛ばしたことでCがケガをした場合。
※ Bからの不法行為に対してAが防衛のため、やむを得ずCを突き飛ばしたことで、Cがケガをしても、Aは損害賠償責任を負わない。(720条1項本文)
※ CからAに対して損害賠償請求はできないが、Bに対して損害賠償請求はできる。(720条1項ただし書)。

〈責任無能力〉
未成年者が他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について、不法行為に基づく損害賠償責任を負わない。(712条)

精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた場合、不法行為に基づく損害賠償責任を負わない。(713条)(故意または過失によって一時的にその状態を招いたときは除く)


〈損害の賠償〉
不法行為が成立すると損害賠償請求権が発生する。(709条)
※ 被害者が即死した場合でも、被害者の相続人は損害賠償請求権を行使できる。(大判大15.2.16)
※ 被害者が慰謝料請求権を行使する意思を表明しないまま死亡した場合でも、その相続人は、相続によって被害者の慰謝料請求権を行使できる。(最大判昭42.11.1)

Bの不法行為によりAに損害が発生している場合。
※ 履行遅滞となる時期… 催告をまたず、損害発生と同時に遅滞に陥る。(最判昭37.9.4)(期限の定めのない債権の場合、本来は履行の請求を受けてから履行遅滞とされることと比較して覚える。)

※ 消滅時効… 次の場合、時効によって消滅する(724条、724条の2)
① 被害者またはその法定代理人が損害および加害者知った時から3年間行使しないとき(人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については、3年間ではなく、5年間
② 不法行為の時から20年間行使しないとき。


〈過失相殺〉
不法行為の被害者にも過失があった場合に、それを相殺して損害賠償額を減額すること。(722条2項)

① 被害者に過失があった場合の被害者の能力
・ 被害者の責任能力が備わっていなかったときの過失⇒ 相殺できる
・ 被害者の事理弁識能力が備わっていなかったときの過失⇒ 相殺できない
(相殺するのに被害者の責任能力は不要だが、事理弁識能力は必要という意味)

② 被害者側の過失
※ 被害者と身分上・生活関係上一体をなすとみられる関係にある者の過失なら、過失相殺の対象となる。
・ 被害者が妻夫に過失があった場合の過失相殺は、できる
・ 被害者が園児保育士に過失があった場合の過失相殺は、できない

③ 被害者の素因
・ 被害者の疾患も原因となった場合の過失相殺は、できる
・ 被害者の身体的特徴も原因となった場合の過失相殺は、できない

④ 過失相殺の判断
・ 過失相殺するかどうかは裁判所の任意の判断
・ 過失相殺の対象は金額


〈損益相殺〉
不法行為が原因となって被害者が何らかの利益も受けている場合、賠償額からその利益を控除すること。(例えば、被害者が殺害された場合、被害者が将来得るはずの収入は失うが、被害者自身の生活費の支出は免れるので、その額は、賠償額から控除されるということ。)
※ 遺族年金は、損益相殺の対象になりますが、生命保険金は損益相殺の対象にならない。
※ 不法行為により幼児が殺害された場合、親は養育費の支出を免れることになるが、賠償額の算定にあたり、これは控除の対象としないとした判例がある。(最判昭53.10.20)


〈近親者固有の慰謝料請求〉
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母配偶者に対しても、その損害を賠償しなければなりません。(711条)
※ 障害の場合や父母・配偶者・子以外の場合でも認められるものもある。

AがBの加害行為により死亡した場合。Aの父Cは、Aを相続していなくても、Bに対して、慰謝料を請求できる

① 障害の場合
生命侵害と同じぐらいの苦痛を伴うものは対象となる。(最判昭33.8.5)
※ 幼い娘に一生消えないような傷をつけられた場合、親は、自分の子の生命を侵害されたのと同じくらい悲しむだろうから、親が加害者に慰謝料請求することも可能。

② 兄弟姉妹の場合
被害者の父母配偶者子以外でも、兄弟姉妹のようにそれに準ずる者は請求できる。(最判昭49.12.17)


〈判例〉
※ 良好な景観に近接する地域内に居住してその恵沢を日常的に享受する利益(警官利益)は、法律上保護に値する利益といえる。(最判平18.3.30)
※ 723条にいう名誉とは社会名誉を指すものであって、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価(名誉感情)は含まれず、主観的な名誉感情の侵害だけでは名誉棄損による不法行為は成立しない。(最判昭45.12.18)(裁判所は、名誉を回復するのに適当な処分も命ずることができる。)
※ 宗教上の理由から輸血拒否の意思表示を明確にしている患者に対して、輸血以外に救命手段がない場合には輸血することがある旨を医療機関が説明しないで手術を行って輸血をしたときは、患者が輸血を伴う可能性のあった本件手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪ったものといえ、患者の人格権を侵害したものとして不法行為が成立する。(最判平12.2.29)
※ 疾病のため死亡した患者の診療に当たった医師の医療行為が、その過失により、当時の医療水準にかなったものでなかった場合、当該医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負う。(最判平12.922)
※ 交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても、その後遺症の程度が比較的軽微であって、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在または将来における収入の減少も認められないという場合には、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認められない。(最判昭56.12.22)
※ 724条(消滅時効)における被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう。(最判平14.1.29)


〈監督者責任〉
6歳の子どもが他人にケガをさせたなど、直接の加害者責任無能力者であるため責任を負わない場合、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者(監督義務者)が、その損害を賠償する責任を負う。(714条1項本文)

6歳の子どもCがAにケガをさせた場合の監督者責任の法律関係。
※ 監督義務者は監督者責任を負う
(ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったことを証明したときまたはその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは責任を免れる。)

※ 17歳の高校生のように未成年者でも責任能力を有する者の加害行為については、その親が監督義務者として714条の責任は負わない
(ただし、親の監督義務違反子の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係が認められるときは、その親が709条によって不法行為責任を負うことがある。(最判昭49.3.22)


(判例)
※ 親権者の未成年者に対して及ぼしうる影響力が限定的で、かつ親権者において未成年者が不法行為をなすことが予測し得る事情がないときは、親権者は、被害者に対して不法行為責任を負わない。(最判平18.2.24)
※ 精神障害者と同居する配偶者は当然にその者の法定の監督義務者に該当するわけではないが、その監督義務を引き受けたと見るべき特段の事情が認められる場合には、当該配偶者は法定の監督義務者に準ずべきものとして714条が類推適用され、責任無能力者の監督者義務としての責任を負う。(最判平28.3.1)。


〈使用者責任〉
仕事で人を雇っている使用者は、その被用者事業の執行について他人に加えた損害を賠償する責任を負う。(715条1項本文)

使用者に代わって事業を監督する者の場合も同様。(715条1項本文)

Bに雇われているCが配達に向かう途中、通行人Aと衝突し、Aにケガをさせた場合、使用者の法律関係。
※ 使用者は使用者責任を負う
(ただし、使用者が被用者の選任・監督について相当の注意をしたときまたは相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは責任を免れる
※ 使用者Bと被用者Cはいずれも被害者Aに対し全額の賠償義務を負うが、BCいずれかが賠償すれば他方は免責される


(判例)
※ 「事業の執行について」には、被用者の職務執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察して、被用者の職務の範囲内の行為に属するものと見られる場合も含まれる。(最判昭40.11.30)
※ 使用者は、損害賠償債務を履行した場合、被用者に求償できるが、求償額は損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度に制限される。(最判昭51.7.8)
※ 使用関係の認定のために、契約関係の存在が必要になるわけではないが、実質的な指揮監督関係の存在は必要である(最判平16.11.12)
※ 飲食店の店員が出前に自転車で行く途中で他の自動車の運転手と口論となって同人に暴力行為を働いた場合の損害は、事業の執行について第三者に加えた損害にあたり、店員の使用者は使用者責任を負う。(最判昭46.6.22)
※ 兄が自己所有の自動車を弟に運転させて迎えに来させた上、弟に自動車の運転を継続させ、兄が助手席に座って、運転について指示をしていた場合、一時的に兄と弟の間に民法715条第1項にいう使用者・被用者の関係が肯定され、兄は使用者責任を負う。(最判昭56.11.27)
※ 被用者が使用者の事業の執行について第三者に加えた損害を賠償した場合、被用者は、相当と認められる額について、使用者に対し、求償することができる。(最判令2.2.28)


〈土地工作物責任〉
土地の工作物の設置または保存瑕疵があったことにより他人に損害を生じさせてしまった場合、その工作物の占有者所有者が被害者に対して損害を賠償する責任を負う。(717条1項)

竹林の栽植または支持に瑕疵がある場合も同様。(717条2項)

Bは自らが所有する建物をCに占有させていたが、この建物の設置に瑕疵があったことにより、通行人Aにケガをさせてしまった場合。

① まずは、土地工作物責任は占有者(C)が責任を負う
(ただし、Cが損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、Cは責任を免れる。
② Cが責任を免れた場合は、所有者Bが責任を負う。(所有者は、無過失責任)


〈動物占有者の責任〉
動物を飼っている人は、その動物が他人にケガをさせたときは、その損害を賠償する責任を負う。(718条1項本文)
占有者に代わって動物を管理する者の場合も同様。(718条2項)
(ただし、動物の種類・性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、責任を負わない。(718条1項)


〈共同不法行為〉
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。(719条1項)

B・Cの2人の加害行為により、Aにケガをさせた場合。
※ Aは、B・Cいずれからでも全額の賠償を受けられる。
※ BがAに全額賠償した場合、BからCに求償できる。
(Bが起こした交通事故によりケガをした被害者Aが搬送された病院での医師Cの不適切な治療により死亡した場合のような、交通事故における運転行為と医療事故における医療行為とが共同不法行為に当たるとした判例もある。最判平13.3.13)


〈共同不法行為と使用者責任〉
共同不法行為者の1人が被害者の損害を賠償し、他の共同不法行為者に求償できる場合、その使用者に対しても求償できる。また、共同不法行為者の1人の使用者が賠償した場合も同様。

タクシー会社Bの運転手Cとバス会社Dの運転手Eの営業上の運転中の衝突事故によりAがケガをした場合。(Aの損害額を1000万円、CとEの過失割合は8:2)
※ タクシー会社BがAに全額賠償した場合、Bから、共同不法行為者であるバス会社Dとその運転手Eに対して求償できる。(損害額の2割に当たる200万円を求償できる。)

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