41. 相続

相続… 人が死亡した時、その財産が残された家族に継承されること。プラスの財産(貯金など)もマイナスの財産(借金)も包括的に継承する。
被相続人… 死亡した者
相続人… 相続する者

〈相続人〉
相続人は、配偶者と一定の血族に限られている。

〈相続順位と法定相続分〉(900条)

相続人となりうる者⇒ 配偶者直系尊属兄弟姉妹(887条、889条1項、890条)

① 子がいる場合⇒ 配偶者(2分の1)子(2分の1)

② 子がいない場合⇒ 配偶者(3分の2)直系尊属の相続分(3分の1)

③ 子も直系尊属もいない場合⇒ 配偶者(4分の3)兄弟姉妹(4分の1)

※ 直系尊属⇒ 自分の祖父母がこれに当たる。(自分より上の世代を尊属、子や孫など自分より下の世代を卑俗(ひぞく)という。

〈欠格・廃除〉
欠格… 遺言状を偽造したり隠匿するなど相続に関して悪い行為をした者の相続権を当然に失わせる制度。(891条)
※ 対象⇒ すべての推定相続人、効力発生⇒ 当然に発生、他の相続人との関係⇒ 当該被相続人以外との関係における相続能力は、否定されない

廃除… 遺留分を有する推定相続人被相続人の請求により、その者の相続権を失わせる制度。(892条)
※ 対象⇒ 遺留分を有する推定相続人、効力発生⇒ 被相続人からの請求により家庭裁判所の審判で発生、他の相続との関係⇒ 当該被相続人以外との関係における相続能力は否定されない、資格回復制度⇒ 廃除の取消しを請求できる


〈相続の承認・放棄〉
相続をするかどうかは自分で選択できる。
単純承認… 被相続人の権利義務をすべて承継する(920条)
※ 被相続人(300万+▲700万)、相続人(100万円)⇒ 100万+(300万+▲700万円)= ▲300万
限定承認… 被相続人の債務の弁済責任などを相続財産の限度でのみ負う留保をつけて、被相続人の権利義務を承継する(922条)
※ 被相続人(300万+▲700万)、相続人(100万円)⇒ 100万+0円=100万
相続放棄… 被相続人の権利義務は一切承継しない(939条)
※ 相続人100万のまま

※ 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内限定承認相続放棄をしなかった場合、単純承認したものとみなされる
※ 共同相続の場合、限定承認は、共同相続人全員で行う必要がある。(923条)
※ 単純承認は家庭裁判所への手続きは不要だが、限定承認・相続放棄をするときは家庭裁判所への手続きが必要限定承認の場合、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。(924条)


〈代襲相続原因〉

代襲相続は、相続開始の前に、相続人である兄弟姉妹が、死亡欠格廃除によって相続権を失っているときは、その相続人の子など直系卑属が代わりに相続する制度(887条2項、889条2項)
※ 自分の父親がすでに死亡していたら、父方のおじいちゃんの財産はに相続される。(本当は、父親が相続するはずだった分を孫が代わりに相続するということ。)
※ 相続放棄は、代襲相続原因とはならない


〈同時死亡の推定と相続〉

死亡の先後が不明のときは同時に死亡したと推定される。(32条の2)そのため、それらの者の間では相続は発生しない。ただし。代襲相続は生じる
※ 親子(父Aと子C)がともに死亡し、その先後が不明だった場合。
( Aの妻B⇒ Aの財産の2分の1を相続する。 Cの子D⇒ Aの子Cを代襲相続してAの財産の2分の1を相続+Cの分は子の立場で相続 )


〈遺産分割〉

遺産分割協議… 共同相続人の協議により遺産の分割をすることが認めれれている。(907条1項)法定相続遺言の記載異なる分割であっても、共同相続人全員の合意によるものであれば、遺産分割協議は有効

ABCの協議Xの遺産を分割するとき
協議の内容⇒ ・住んでいる家と土地はAがもらう。 ・アパートはBがもらう。 ・有価証券はCがもらう。 ・現金はABCで3等分する。
※ 遺産分割協議で決めた債務を履行しない者がいても、他の相続人は、債務不履行を理由として当該遺産分割協議を解除することはできない(最判平元2.9)
※ 共同相続人の全員の合意により遺産分割協議を解除した上で改めて遺産分割協議をすることはできる(最判平2.9.27)
※ 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定めたり相続開始の時から5年を超えない期間を定めて遺産の分割を禁ずることもできる。(908条1項)


〈裁判分割〉

遺産分割協議が調わないときまたは協議をすることができないときは、共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することもできる。(907条2項本文)


〈遺留分〉

遺留分… 
 残された家族のために相続財産の一部は取り戻せる仕組みがあり、最低限留保されている部分のことを遺留分という。

※ 父親が死亡した場合のの遺留分は、遺留分を算定するための財産の価額2分の1を乗じた額となる。
※ 被相続人がした遺贈のほか、贈与も遺留分の算定の財産価額に算入されるが、相続開始前の1年間にした贈与に限られる。ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したときは、1年前の日より前にしたものについても対象になる。(1044条1項)

遺留分の侵害
 遺留分は当然に残されるわけではなく、遺留分侵害額を計算し、遺留分権利者が、受遺者・受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求して、その金額を支払ってもらうことで解決する。(1046条1項)
※ 不動産や動産の取戻しを認めることは法律関係を複雑化させることになりかねないことから、金銭で解決する仕組みとなっている。

被相続人(親)A全財産他人Xに贈与する旨の遺言を残して死亡した場合。
※ 遺言自体は有効となるが、遺留分侵害額の請求はできる。(Aの財産が3000万円のとき、遺留分は3000万円に2分の1をかけた1500万円となる。
※ 遺留分権利者は、受遺者・受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができる。(1046条1項)
※ 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。(相続開始の時から10年を経過したときも同様)(1048条)
※ 家庭裁判所の許可を受ければ、相続の開始前における遺留分の放棄も可能。なお、共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。(1049条2項)
※ 直系尊属のみが相続人である場合の遺留分は遺留分を算定するための財産の価額の3分の1それ以外の場合の遺留分は遺留分を算定するための財産の価額の2分の1。(1042条)
※ 配偶者、子、直系尊属には遺留分が認められるが、兄弟姉妹には遺留分は認められない。(1042条)


〈遺言の方式〉
遺言… 生前の自分の意思を残しておくこと。

遺言(普通方式の遺言)の方式には、直筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言の3種類がある。(967条)

直筆遺言(968条)…
作成⇒ 遺言者が遺言の全文日付氏名自書して、押印する
証人⇒ 不要
検認⇒ 必要
※ パソコンで作成してプリントアウトしたものや、録画録音で遺言したものは無効。カーボン紙を用いて複写したものは、有効
※ 直筆証書遺言の内容を変更する場合、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押す必要がある。(968条3項)

公正証書遺言(969条)
作成⇒ 遺言者が公証人に口授して、公証人が筆記する。
証人⇒ 2人以上
検認⇒ 不要
※ 公証人とは、公正証書の作成や、その他の証書に必要とされる認証を与える権限を有する公務員のこと。口授は、口で伝えること。
※ 口がきけない者の場合、公証人および証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述しまたは自書して口述に代える。(969条の2第1項)
※ 公正証書遺言の場合、検認の手続きは不要。(1004条2項)公正証書の原本は公証人が作成し、公証役場で保管しているため、偽造のおそれがないため。

秘密証書遺言(970条)
作成⇒ 遺言書署名押印して封印し、公証人日付等を記入
証人⇒ 2人以上
検認⇒ 必要
※直筆証書遺言ではないので、自書している必要はない


〈遺言の効力発生〉
遺言は、遺言者が死亡した時から効力を生じる。(985条1項)
受遺者は、遺言者の死亡後いつでも、遺贈の放棄をすることができる。(986条1項) 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生じる。(986条2項)
遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。(994条1項)
※ 遺言に停止条件を付した場合は、その条件が遺言者の死亡後に成就した時から効力を生ずる。(985条2項)


〈遺言の検認〉
遺言書の保管者相続の開始を知った後や、遺言書の保管者がいない場合で相続人が遺言書を発見した後において、その者は、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなくてはいけない。(1004条1項)


〈遺言執行者〉
遺言者は、遺言で、1人または数人遺言執行者を指定し、またはその指定を第三者に委託することができる。(1006条1項)
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。(1012条1項)
※ 未成年者・破産者は、遺言執行者となることができない。(1009条)
※ 遺言執行者は、就職を承諾したときは直ちにその任務を行わなければならず、その任務を開始したときは遅滞なく遺言の内容相続人に通知しなければならない。(1007条1項・2項)


〈遺言の撤回〉
遺言は、いつでも遺言の方式と同様の方法により、撤回することができる。(1022条)
遺言者は、その遺言を撤回する権利放棄することはできない。(1026条)
遺言が複数存在した場合、新しい遺言古い遺言異なる記載があったときは、新しい遺言で古い遺言の内容を撤回したとみなす。(1023条1項)
※ 遺言の撤回も遺言の方式による必要があるが、すでにした遺言と同一の方式である必要はない。そのため、公正証書遺言で作成した遺言を直筆証書遺言で撤回することも可能。


〈未成年者・成年被後見人の遺言〉
15歳以上の者であれば、単独で遺言をすることができる。(961条)
成年被後見人も、事理弁識能力を一時回復している状態であれば、医師2人以上の立会いのもと、遺言をすることができる。(973条1項)


〈共同遺言の禁止〉
遺言は2人以上の者同一の証書ですることはできない。(975条)


〈配偶者居住権〉(令和2年4月施行・配偶者の居住の権利の規定が設けられた)

概要
被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合、遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたときや、配偶者居住権が遺贈の目的とされたときには、居住建物の全部について無償で使用・収益をする権利を取得する。(1028条1項本文)
※ 被相続人の配偶者に所有権を認めて遺産分割をしてもいいし、被相続人の子に所有権を、被相続人の配偶者に配偶者居住権を認めて遺産分割をしてもよい。
※ 被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には、配偶者居住権を取得できない。(1028条1項)
※ 遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるときは、審判により、配偶者が配偶者所有権を取得する旨を定めることができる。(1029条2号)
※ 配偶者居住権の存続期間は終身です。(1030条本文)別段の定めがあるときを除き、配偶者は生きている間はずっと居住建物に無償で住み続けることができる。

配偶者居住権の登記
遺産分割や遺贈によって配偶者が配偶者居住権を取得するということは、この建物の所有者は別に存在することが前提になる。このとき、建物の所有者は、配偶者居住権を取得した配偶者に対し配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。(1031条1項)
※ 登記申請は、建物所有者と配偶者の共同申請となる。(配偶者が単独で登記できるわけではない。)

居住建物の使用・収益
配偶者は、配偶者居住権を取得していれば、その建物につき使用・収益できる

AB夫妻がA所有の家に住んでおり、Aが妻Bと子Cを残して死亡。BCの遺産分割協議により、Bには建物の所有権の取得は認めなかったが、配偶者居住権が認められた場合。
※ 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用・収益をしなければならない。(1032条1項本文)
※ 配偶者居住権譲渡することができない。(1032条2項)
※ 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築増築をしたり、第三者に居住建物を使用収益させることはできない。(1032条3項)
※ 配偶者は、居住建物の使用・収益に必要な修繕をすることができる。(1033条1項)
※ 配偶者は、建物の通常の必要費負担する。(特別の費用費、有益費は、所有者が負担する。)(1034条1項・2項)
※ 配偶者に善管注意義務違反があった場合、居住建物の所有者は、相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、当該配偶者に対する意思表示により配偶者居住権を消滅させることができる。(1032条4項)
※ 居住建物の修繕が必要である場合、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができる。(1033条2項)


〈配偶者短期居住権〉
配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住しており、居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合、遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日または相続開始のときから6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間、居住建物の所有権を相続または遺贈により取得した者に対し、居住建物について無償で使用する権利を有する。(1037条1項本文)
※ 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない。(1038条1項)
※ 配偶者は居住建物取得者の承諾を得なけらば、第三者に居住建物の使用をさせることができない。(1038条2項)
※ 配偶者短期居住権は譲渡することができない。(1041条、1032条2項)
※ 配偶者は、居住建物の使用に必要な修繕をすることができる。(1041条、1033条1項)
※ 配偶者は、建物の通常の必要費負担する。(特別の必要費、有益費は、所有者が負担する。)(1041条、1034条1項・2項)
※ 配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は消滅する。(1039条)
※ 配偶者居住権、配偶者短期居住権いずれも使用貸借契約における借主死亡による終了の規定(597条3項)の規定が準用されている。(1036条、1041条)つまり、配偶者が死亡するとこの権利は消滅するということ。
※ 配偶者に善管注意義務違反があった場合、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる。(1038条3項)

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