抵当権… 処分の根拠となる権利の一つ(⇔使用収益と処分の両方の根拠となるのが所有権)抵当権設定者が目的不動産の占有を移すことなく、債務者が債務を履行しないときの担保に共し、債務が弁済されないときに、抵当権者が抵当不動産を競売にかけ、その代金から他の一般債権に優先して弁済を受けることができる担保物件のこと。
〈担保物件に共通する性質〉
※ 付従性(ふじゅうせい)… 抵当権は借金が存在するから成立し、借金がなくなれば役目を終えて消滅する。
※ 随伴性(ずいはんせい)… 借金が他の人に譲渡されれば抵当権もそれに伴って移転する。
※ 不可分性(ふかぶんせい)… 被担保債権を一部弁済したからといって、抵当権が部分的に消滅することはない。
※ 物上代位性(ぶつじょうだいいせい)… 抵当不動産が滅失した場合、代わりに抵当権設定者が受けるべき金銭等について行使できる。(火災で滅失しても火災保険金から優先回収できる。)
〈抵当権の設定と債権の回収〉
優先弁済… 土地や建物を債務の担保とし、抵当権を設定しておけば、債務が弁済されないときに、抵当権者は、その土地や建物を競売にかけて、落札代金から優先して債権の回収を受けることができる。
※ AがBに1,000万円を貸し、CがBに500万円を貸しているが、Bの財産は1,200万円の土地しかない場合。本来は、債権額に応じて平等に分けるので、Aが800万円(3分の2)、Cが400万円(3分の1)の分配となる。
Bの土地にAのために抵当権を設定した場合⇒ Aが優先的に1,000万円回収でき、Cは残額から回収することになり、200万円のみ回収できる。(抵当権を設定した場合、抵当権者は、他の一般債権者よりも優先して債権を回収することができる。
〈対抗要件〉…抵当権も物権なので、登記が対抗要件となる。
〈抵当権の順位〉… 同一の不動産に対して複数の抵当権を設定することもできる。抵当権が実行されて換金されたら先順位の抵当権者から順に優先的に債権回収することができる。また、各抵当権者の合意によって順位の変更もできる(登記が必要)。
※ Bの土地に3月5日に抵当権の設定を受け登記を済ませたA(第一抵当権)、Bの土地に3月10日に抵当権の設定を受け登記を済ませたC(第二抵当権)〈契約はCの方が先でも、登記はAの方が先〉⇒ この土地からは、Aが最初に優先回収し、Cが2番目に優先回収できる。
〈被担保債権の範囲〉… お金を貸して利息が8年分たまっている場合、債権者は貸した元金だけではなく利息も含めて債権を回収できる。抵当権の実行により優先的に回収していいのは、利息については最後の2年分に限られている。
〈抵当権の効力〉… 抵当権の効力は抵当不動産の従物にも及び、抵当権の対抗要件を具備すれば、第三者に対する対抗力は、抵当不動産だけではなく、従物についても生じる。(土地だけに抵当権が設定されている場合、土地上の建物には抵当権の効力は及ばない。)
※ 付加一体物(建物の玄関扉など建物に付加して一体となったもの)⇒及ぶ
※ 従物(建物に設置されていたエアコン)⇒ 及ぶ
※ 従たる権利(建物が借地上に建てられた場合、その敷地利用権)⇒及ぶ
※ 果実(建物の賃料などの果実で、被担保債権に不履行があった後に生じたもの)⇒ 及ぶ
(建物内にあるテレビや骨董品など、付加一体物とも従物とも評価できない物についてまでは抵当権の効力は及ばない。)
〈物上代位〉… 抵当権が設定された建物が火災で滅失した場合、抵当権者Aが火災保険請求権を差し押さえて優先回収にあてることができる。(保険会社CからBに金銭が支払われる前に、Aが差し押さえれば物上代位できる。)
※ BがAのために抵当権を設定した抵当不動産がCに賃貸され、さらにDに転貸されている場合、AがCのDに対する転貸料債権に対しては、物上代位できない。
※ 抵当権者Aの物上代位の対象となる債権が抵当権設定者BからDに譲渡された場合、Aは金銭が支払われる前にこれを差し押さえて物上代位できる。
※ 抵当権の侵害… 抵当不動産の交換価値の実現が不法占拠などで妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使を困難とするような場合には、抵当権に基づき妨害排除請求できる。
※ 共同抵当… 土地と建物の両方に抵当権を設定する場合のように同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を設定することもできる。(被担保債権が2400万で、土地が2000万円、建物が1000万円なら2:1の割合で回収。土地から1600万円、建物から800万円の回収となる。)
〈物上保証人〉… 債務者以外の人が所有している土地や建物に抵当権を設定した場合、この人のことを物上保証人と呼ぶ。
BのAに対する債務のために、AがCが所有する土地に抵当権の設定を受けていた場合Cを物上保証人と呼ぶ。(抵当権設定者は債務者自身でなくともよい。保証人と違ってAに対して債務を負うわけではない。)
※ CがBの債務を代わりに弁済したときや、抵当権が実行されてCが土地の所有権を失ったときは、CはBに対して求償できる。
※ 物上保証人Cは、あらかじめBに対して求償することはできない。
※ 物上保証人Cは、Aの抵当権実行に対して、まずBの財産から先に執行するように抗弁することはできない。(保証人の場合まず主債権者から先に取り立ててくれるように言える「検索の抗弁権」があるが、物上保証人にはない。)
〈抵当不動産の第三取得者〉…抵当権が設定されている土地や建物を購入した人
BのAに対する債務のために、AがB所有の土地に抵当権の設定を受けていたが、BがCにこの土地を売却した場合。
※ 土地の所有者がCに変わっても、BがAにお金を払わなかったら、Aは抵当権を実行して、この土地を競売にかけることができる。
※ Cが抵当権を消滅させるためには、代価弁済や抵当権消滅請求といった方法がある。
【代価弁済とは、抵当不動産の第三取得者が抵当権者の請求に応じ抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権はその第三取得者のために消滅すること。】
【抵当権消滅請求とは、抵当不動産の第三取得者が、抵当権者に対し、「一定の金額を払うから代わりに抵当権を消滅させてほしい」と請求し、抵当権者がそれを承諾し、抵当権者にその金額を支払えば抵当権は消滅すること。主たる債務者や保証人は、この請求はできない。抵当不動産の停止条件付第三取得者は、その停止条件の成否が未定である間は、抵当権消滅請求をすることができない。抵当権実行としての競売による差し押さえの効力発生前に請求する必要がある。】
※ 抵当不動産の第三取得者であるCも。当該不動産の競売において買い受け人となることができる。
〈抵当権と時効〉
※ 消滅時効… 債務者及び抵当権設定者でない者の場合、被担保債権と同時でなくても、抵当権だけを時効によって消滅させることができる。
※ 取得時効… 抵当不動産が、債務者または抵当権設定者でない者によって時効取得された場合、その者が原始取得する反面、抵当権は消滅する。
〈法定地上権〉… 民法では、抵当権が実行され、土地の所有者とその土地上の建物の所有者が別人になる場合に備えて、地上権を法律上当然に成立させる制度がある。
BのAに対する債務のために、AがB所有の建物のみに抵当権の設定を受けていた。抵当権の実行によりXがこの建物を落札すると、B所有の土地にXが建物を所有することになる。この時、地上権を法律上発生させることで、XはB所有の土地を使用することが可能となる。
※ 法定地上権の成立… ①抵当権設定当時、土地の上に建物が存在すること。②抵当権設定時、土地と建物は同一人物が所有していること。(登記名義は別でも、実態的に土地・建物が同一人の所有にあるなら、法定地上権は成立。)③抵当権が設定されていること。④競売により土地・建物の所有者が別々になること。
〈抵当権設定後に建物が建てられた場合〉
BのAに対する債務のために、AがB所有の土地に一番抵当権を設定を受けていた。その後その土地に建物が建てられ、CもB所有の土地に二番抵当権の設定を受けた。その土地をXが落札し土地と建物の所有者が別々になった。
※ 法定地上権の成立⇒ 成立しない。(一番抵当権設定時に土地上に建物が存在していないので①も満たしてないから。土地の担保価値を高く評価していた一番抵当権者Aにとって不利益にならないように、成立要件はAを基準で判断する。)
〈抵当権設定後に建物が再築された場合〉
BのAに対する債務のために、AがB所有土地に抵当権の設定を受けた。抵当権設定当時に存在していたB所有の建物が取り壊され再築され、抵当権が実行されて土地・建物の所有者が別人となった場合。⇒ 法定地上権が成立する。
〈共同抵当における再築の場合〉
BのAに対する債務のために、AがB所有の土地・建物に共同抵当権の設定を受けた。抵当権設定当時に存在していたB所有の建物が取り壊され再築され、Aの土地に対する抵当権が実行されてXが落札し、土地(X)・建物(B)の所有者が別人となった場合⇒ 法定地上権は成立しない。(抵当権者は土地と建物の全体の担保価値を把握しており、建物が取り壊された場合は更地としての担保価値を高く評価しようとするから。)
〈抵当権設定当時に土地・建物が別人所有の場合(土地)〉⇒(土地に抵当権を設定)法定地上権は成立しない。
※ BのAに対する債務のために、AがB所有の土地(その上にDの建物有)に一番抵当権の設定を受けた。その後、その土地の上にD所有の建物があったが、DからBに移転した。移転後に、BのCに対する債務のために、CはBの土地に二番抵当権の設定を受けた。Cの二番抵当権が実行されXが落札した場合。(土地:X所有、建物:B所有)⇒ 法定地上権は成立しない。(一番抵当権設定時には要件を満たしていないから。二番抵当権設定前に、一番抵当権が消滅していた場合は成立する。)
〈抵当権設定当時に土地・建物が別人所有の場合(建物)〉⇒(建物に抵当権を設定)法定地上権は成立する。
D所有の土地にB所有の建物がある。BのAに対する債務のために、AはB所有の建物に一番抵当権の設定を受けた。その後、土地の所有権がDからBに移転。移転後に、CのBに対する債務のために、CはB所有の建物に二番抵当権の設定を受けた。Aの一番抵当権が実行されXが落札した場合。(土地:B所有、建物:X所有)⇒ 法定地上権は成立する。(建物の場合、法定地上権の成立は一番抵当権者の不利益にはならないので、二番抵当権設定時を基準に判断できる。)
〈抵当権設定当時に土地(B単独所有)・建物(BC共有)の場合(土地)〉⇒(土地に抵当権を設定)法定地上権は成立する。
※ (土地:B単独所有、建物:BC共有)、AがB所有の土地に抵当権の設定を受け、Aが抵当権を実行してXが落札した場合。(土地:X所有、建物:BC共有)⇒ 法定地上権は成立する。(Cにとっては、法定地上権が成立しても困ることはないから。)
〈抵当権設定当時に土地(BC共有)・建物(B単独所有)の場合(建物)〉⇒(建物に抵当権を設定)法定地上権は成立しない。
※ (土地:BC共有、建物:B単独所有)、AがB所有の建物に抵当権の設定を受け、Aが抵当権を実行してXが落札した場合。(土地:BC共有、建物:X所有)⇒ 法定地上権は成立しない。(Cにとっては、法定地上権が成立たら困るから。)
〈一括競売〉… 土地に抵当権を設定した後で、建物が建てられた場合、抵当権者は、土地と建物を一括して競売にかけることもできる。(かけなければならないわけではない。抵当権者が決めること。)ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。
〈抵当権と賃貸権の優劣〉… BのAに対する債務のために、AがBの所有する建物に抵当権の設定を受けた。その後、この建物をBがCに賃貸した。Aが抵当権を実行してDが落札した。CはBとの契約による賃借権をDに対抗することができるか。⇒ Cの賃貸借はAの抵当権に劣後するため、抵当権実行による買受人のDに対抗することはできない。
※ Cが賃貸借の登記をして第三者に対する対抗要件を備えていたとしても、賃貸借と抵当権の優劣は登記の先後で決まる。つまり、賃貸借を登記していたら、Cはその登記後に登場したAの抵当権実行による買い受け人Dに対抗できる。逆に、Aが先に抵当権設定登記をしていたら、その後にCが賃貸借の登記をしても、Cは賃借権をAの抵当権実行による買い受け人Dに対抗できない。
〈賃借建物の引渡猶予〉… 抵当権設定後の賃借人は賃借権を抵当権者に対抗できないが、抵当権実行による買い受け人Dの買い受けの時から、6か月を経過するまでは建物の引渡しは猶予される。(猶予期間中でも、使用の対価は支払う必要がある。建物使用者Cが対価の支払いを怠っていた場合、買い受け人Dは、買い受けの後、Cに対し、相当の期間を定めて、使用の対価の1か月分以上の支払いの催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、猶予制度は適用されない。)
〈根抵当権(ねていとうけん)〉… 抵当権はすでに発生している特定の債権を担保するもの。これに対し、継続的な取引から生じる不特定多数の債権を一括して担保するための仕組みが根抵当権である。
AB間の取引は月末締めの翌月10日払いとする契約をしていた。この取引において、債権が発生するたびに抵当権を設定し抹消するのではなく、極度額(上限額のこと)を3000万円とし、5月31日を元本確定期日としてB所有の建物に根抵当権を設定した場合。(根抵当権者は、確定した元本、利息等の全部について、極度額を限度として根抵当権を行使できる。)
※ 元本確定前は付従性がないため、被担保債権を弁済しても根抵当権は消滅しない。
※ 元本確定前は随伴性がないため、被担保債権を譲渡しても根抵当権は移転しない。
※ 元本確定前は、被担保債権の範囲や債務者を変更することができ、変更にあたり、後順位抵当権者その他の第三者の承諾を得ることは不要。(元本の確定前に登記が必要。)
※ 元本確定期日は、後順位の抵当権者、その他の第三者の承諾を得なくても、5年以内の期日の期日で変更することができる。(変更前の期日より前に登記が必要。)
※ 極度額の変更には、利害関係を有する者の承諾が必要。
〈元本確定前の根抵当権の譲り渡し〉…根抵当権設定者の承諾を得て可能。
(元本確定前に、債権の譲渡を受けたCは、その債権について根抵当権を行使できない。また、根抵当権設定者Bが、Bの債権をCに引き受けてもらったとしても、債権者Aは、Cに対して根抵当権を行使できない。)
〈元本確定後の根抵当権の極度額減額請求〉…元本が確定した後において、根抵当権設定者は、根抵当権の極度額を、現に存する債務の額と以後2年間の利息等を加えた額に減額することを請求できる。