4. 商行為

商取引が継続して行われるものであることや迅速に行われるべきものであることなどの性質から民法と異なる規定が商法ではされている。
※ 寄託契約の場合、民法では、無報酬の受寄者は自己の財産に対するのと同一の注意をもって保管すればよいが(民法659条)、商法では、無報酬だとしても寄託を受けた商人は善良なる管理者の注意をもって保管することが必要とされている。(商法595条)


〈商行為の代理〉
商行為の代理人の場合、本人のためにすることを示さないでしたときでも、その行為は本人に対してその効力を生じる。(504条本文)

BがAの代理人としてCと契約する場合。
※ Cは、BがAのための行為だと示さなかったとしてもAに対して効力が生じる。(民法では、Aのための行為だと示さないときは、Cが善意無過失のときはBのためにしたものとみなされる。)
※ BがAのためにしていることを知らなかたときはBに対しても履行の請求をすることができる。(504条ただし書)(この場合、相手方Cは、その選択により、本人Aとの法律関係を否定し、代理人Bとの法律関係を主張することができる。:最判昭43.4.24)
※ Aが死亡しても代理権は消滅しない。(民法では、Aが死亡することで、Bの代理権は消滅する。)


〈商行為の委任〉
商行為の受任者は、委任の本旨に反しない範囲内において、委任を受けていない行為をすることができる。(505条)


〈隔地者の契約の申込み〉
承諾の期間を定めないで契約の申込みを受けた者が相当の期間内に承諾の通知を発しなかったときは、その申し込みは効力を失う。(508条1項)
※ この場合、申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる。(508条2項、民法524条)


〈諾否通知義務〉
商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。(509条1項)
※ この場合、商人が通知を発することを怠ったときは、契約の申し込みを承諾したものとみなされる。(509条2項)


〈物品保管義務〉
商人がその営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合において、その申込みとともに受け取った物品があるときは、その申込みを拒絶したときであっても申込者の費用をもってその物品を保管しなければならない。(510条本文)


〈商事担保〉

~ 多数当事者間の債務の連帯 ~
数人の者がその1人または全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担する。(511条1項)
補償債務の場合、主たる債務が主たる債務者の商行為によって生じたものであるとき、または保証が商行為であるときは、連帯保証として取り扱われる(511条2項)(民法では、単なる保証と連帯保証の区別があるが、商法上の保証は連帯保証を意味する。)


〈質権〉
商行為によって生じた債務を担保するために設定した質権の場合、流質契約も有効になる。(515条)
※ 質権を設定する際に、債務者が債務不履行に陥ったときに、質権者が直ちに質物の所有権を取得するなど法律に定めた方法によらない質権を実行することを約束することを、流質契約という。民法では、借主保護のために法が後見的に介入して流質契約を禁止しているが、商人なら自分の利害は自分で計算できるので、法による後見的介入は必要ないから。


〈留置権〉
商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者は、その債権の弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有する物を留置できる。(521条)。

~ 民法における留置権 ~
※ 留置権の目的物は、債務者所有の物か否かを問わない
※ 債権と物の牽連性が必要で、直接的・個別的な関係が必要。(民法では、Aが車を留置できるのはその車の修理代金債権担保のためと個別的に考えられている。)

~ 商法における留置権 ~
※ 留置権の目的物は、債務者所有の物に限る
※ 債権と物の牽連性は不要で一般的・抽象的な関係で足りる。(商法では、その車の修理代金債権ではなく、別の債権(AがBに貸したお金など)の担保のためでも、AはB所有の車を留置できる。個別的な関係はなくてもよいと考えられている。)


〈運送営業〉

~ 物品運送契約 ~
物品運送契約は、運送人が荷送人からある物品を受け取りこれを運送して荷受人に引き渡すことを約し、荷送人がその結果に対してその運送賃を払うことを約すことによって、その効力を生ずる契約。(570条)
※ 運送人とは、陸上運送、海上運送、航空運送の引受けをすることを業とする者のことをいう。

~ 送り状 ~
荷送人は、運送人の請求により、送り状を交付しなければならない。(571条1項)

~ 運送人の責任 ~
運送人は、運送品の受取から引き渡しまでの間にその運送品が滅失・損傷したり、滅失・損傷の原因を生じさせたり、運送品が延着したときは、運送人がその運送品の受取、運送、補完、引渡しについて注意を怠らなかったことを証明したときを除き、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(575条)

貨幣、有価証券その他の高価品については、荷送人が運送を委託するに当たりその種類および価額通知した場合を除き、運送人は、その滅失・損害・延着について損害賠償の責任を負わない。(577条1項)
※ 高価品とは、容積・重量の割りに著しく高価な物品を指す。
※ 運送品が高価品であることを運送人が知っていた時や、故意または重過失によって高価品の滅失・損傷・延着が生じたときは、通知がなくても、運送人は責任を負う。(577条2項)


〈場屋営業〉
商人がその営業の範囲内において寄託を受けた場合には、報酬を受けないときであっても、善良な管理者の注意をもって、寄託物を保管しなければならない。(595条)
※ 旅館、飲食店、浴場その他の客の来集を目的とする場屋における取引をすることを業とする者を場屋営業者(じょおくえいぎょうしゃ)という。

~ 場屋営業者の責任 ~
場屋営業者は、客から帰宅を受けた物品の滅失・損傷については、不可抗力であったことを証明しなければ、損害賠償の責任を免れることができない。(596条1項)。
※ 場屋営業者の責任に係る債権は、場屋営業者が寄託を受けた物品を返還し、または客が場屋の中に携帯した物品を持ち去った時、物品の全部損失の場合にあっては客が場屋を去ったときから1年間行使しなかったときは、時効によって消滅する。(598条1項)ただし、この規定は、場屋営業者が当該物品の滅失または損傷につき悪意であった場合には適用されない。(598条2項)

客が寄託をしていない物品であっても、場屋の中に携帯した物品が、場屋営業者が注意を怠ったことによって滅失・損傷したときは、場屋営業者は、損害賠償の責任を負う。(597条)
※ 預けた荷物が滅失したときは、不可抗力によることを証明できなければ責任が生じる
※ 携帯品が滅失したときは、注意を怠ったことによるときは責任が生じる
※ 高価品が滅失したときは、客が種類・価額を通知して寄託したときを除き責任は生じない

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